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メンタルヘルスが仕事に影響、企業はどうする?【WSJ厳選記事】


ヘルス

大坂なおみ選手の全仏オープン棄権のような私的な問題に、多くの企業が直面している



By Te-Ping Chen
2021 年 6 月 4 日 14:18 JST 更新プレビュー


 テニスの大坂なおみ選手は今週、多くの職場では考えられないことをした。うつや社交不安に苦しんでいることを告白し、プロテニスプレーヤーの仕事には不可欠と一部の人たちがみなす記者会見を行うことができないと明らかにした。

 現在23歳で年収世界トップの女性アスリートである大坂選手は典型的な職業人ではないし、テニスの全仏オープンは従来の職場とも異なる。しかし、大坂選手の自身のメンタルヘルス問題に関する率直さは、そうした問題について比較的あけすけな若い世代が労働力に加わる中、企業がますます直面するようになっている私的な問題が公になった一例だ。

 企業は近年、メンタルヘルス面の支援やサービスに力を入れ、従業員のニーズに適応しようとしている。しかし、大坂選手の発表とその後の全仏オープン棄権は、とりわけ悩ましい問題にスポットライトを当てることになった。個人のメンタルヘルスニーズがその人の仕事の一部をこなす能力に影響する場合、どう対応すればいいのかという問題だ。

 支援が十分かどうかについて、雇用主と従業員の間には認識に開きがあることをデータは示している。コンサルティング会社マッキンゼーが今年公表した調査によると、従業員のメンタルヘルスに対する支援は充実している、または非常に充実していると答えた雇用主は65%だったのに対し、それに同意する従業員は51%だった。

 若い労働者は年配の労働者よりもメンタルヘルス問題について報告する確率が高いことも調査で明らかになった。米疾病対策センター(CDC)と米国勢調査局のデータによると、18~29歳の労働者で不安障害または抑うつ障害の症状を報告していた人の割合は2020年8月~21年2月に行われた調査で49%から57%に増えていた。一方、50代ではそれぞれ35%と41%だった。

 「障害を持つ米国民法」では、精神疾患について、それが仕事などの主要な生活活動を大幅に制限する場合、法の下に保護された障害に当てはまるとしている。そのような場合、雇用主は従業員と協力してその人が自らの仕事をこなせるよう便宜を図ることが義務付けられている。例えば、休憩時間を増やしたり、口頭ではなく書面で指示を与えたりするといったことだ。しかし、同法の対象となる重度の不安や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの症状はあいまいで個人ごとに大きく異なる場合があるため、企業にとって便宜を図るのは難題だと雇用専門の弁護士や障害の専門家は話す。

 メンタルヘルスを含むさまざまな問題について雇用主に助言や研修を提供している弁護士のマリア・ダナハー氏は、従業員が仕事の中核的な義務をこなせない場合、事態はとりわけ複雑になると話す。「保護するには、保護できる必要がある」

人材確保にも影響

 ダナハー氏によると、中には公の場で話す、決まった時間に出勤するといった仕事上の重要な要件を緩めている雇用主もいる。特にホワイトカラー職ではそうだという。新型コロナウイルス禍は、雇用主が個々の労働者のニーズを理解し、より柔軟な、または個人のニーズに合った働き方を受け入れる後押しをしたとダナハー氏は指摘する。

 雇用主は近年、メンタルヘルスをより差し迫った問題と捉えるようになっている。こう話すのは、米精神医学会職場メンタルヘルス研究所のダーシー・グラッタダロ所長だ。多くの企業にとって、若い労働者のメンタルヘルス上のニーズや要求に関する率直さに適応することは、優秀な人材の獲得・維持を左右する問題になっているという。

 グラッタダロ氏は「能力の高い人は維持したいし、メンタルヘルス問題を抱える人には能力が高い人が多いことは明らかだ」とし、なぜならこの問題は非常に多くの人に影響しているからだと述べた。

 国際従業員給付制度財団(IFEBP)が実施した調査によると、コロナ禍をきっかけにメンタルヘルス関連の福利厚生を拡大した雇用主は16%に上った。「(昨年は)誰しもに一様にメンタルヘルス面のストレスについて思い切って打ち明ける意欲をもたらした」。雇用主に助言を提供しているウィリス・タワーズ・ワトソンで健康管理部門の責任者を務めるアビヌエ・フォルティンゴ氏はこう話す。同社の顧客は従業員向けの行動医療に関連したコストが2桁の伸びを示しているという。

 それでも従業員は、メンタルヘルス面の支援を求めることで評判が傷つく可能性を懸念している。米精神医学会が今年実施した調査によると、そのような支援を求めたり、メンタルヘルス面の理由で休暇を取得したりした場合、報復的な措置が取られることを懸念していると答えた労働者は40%以上に上った。

 多くの若い従業員は、テスト時間や課題の提出期限の延長といった便宜を受けられた学生時代を経て入社してくるが、職場はそれほど寛容でない場合がある。

個人レベルでの対処には困難も

 職場のメンタルヘルス問題を専門とする弁護士のデブラ・フリードマン氏は、雇用主は今後、メンタルヘルスニーズに応える努力をするようになるだろうと話す。

 だが中には、例えば不安症を患う人にリモート勤務や長期休暇を認めるなど、1人に便宜を与えれば、前例を作ることになりかねないと懸念する雇用主もいるという。「1人になら便宜を図れるかもしれないが、20人に便宜を図るとなると話は別だ」とフリードマン氏は指摘する。

 メンズウエア会社ボノボスの共同創業者で衣料品会社モニカ・アンド・アンディの会長を務めるアンディ・ダン氏は、企業にとって個人レベルでメンタルヘルスに対処するのは困難な場合があると話す。

 昨年まで米小売りチェーン大手ウォルマートでデジタル・コンシューマー・ブランド担当上級副社長を務めていたダン氏は、ある従業員が気まぐれな行動を取ったり、他の従業員に失礼な話し方をしたりする事態が生じたときのことを語ってくれた。会社はメンタルヘルス問題が影響している可能性を疑っていたものの、どうしていいか分からず、その従業員は最終的に会社を辞めてしまったという。

 ダン氏は「われわれの対応はお粗末だった」とし、「そうしたシナリオへの対処法に関する青写真がなかった」と述べた。

 同氏が経営者として直面しているもう一つの難題が、メンタルヘルス問題を抱える労働者の休暇の扱い方だ。そのような休暇は、育児休暇のような会社が対処に慣れている明確に決まった期間には収まらないことが多い。

 それでも、この問題への意識を高めることは、企業と労働者が前進する手助けになるとダン氏は指摘する(自身はうつの苦しみについて2013年に公に語り始めた)。従って、大坂選手のような人が声を上げることで大きな波及効果がもたらされ、他の人たちも同様の行動が取りやすくなる可能性があると話す。

 「他の人たちも自分は一人ではないと感じ、自身の悩みについてもっと発言しやすくなる」




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