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「過去の自分」超えた春 男子100m・新崎仁也、大学日本一に照準<ブレークスルー>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
沖縄選手権の男子100メートル決勝 トップでゴールする新崎仁也=5月9日、沖縄市のタピック県総ひやごんスタジアム

 陸上男子100メートルの新崎仁也(まさや)(22)=那覇中―那覇西高―九州共立大4年=に復活の兆しが見えてきた。大学1年で県記録にあと0・02秒に迫る10秒37の自己ベストを記録しながら、その後は記録更新へのプレッシャーから伸び悩み「大会に出るのが嫌になる時期もあった」。4年生となった今春、先輩から「目標到達までの過程を大事に」との助言を得て、目の前のレースにより集中できるようになった。6月の日本学生個人選手権で自身初の全国入賞を果たし、上り調子で“最後の夏”を迎える。

■日本記録保持者の助言

 中学、高校と全国を経験し、高校でのベストは10秒70。さらに大学進学直後の2018年6月にあった西日本インカレで10秒37を記録し、一気にベストを縮めて県記録(10秒35)に迫った。「大学2年くらいには県記録を出せるだろうと思っていた」。しかし、現実は甘くなかった。

 「その時からすごい考え込むようになった」と記録更新への願望が先行し、試合での走りに硬さが生まれた。下半身の筋力強化で地面に伝える力が強くなり、練習での感覚は改善していったが、なかなか試合で結果が出ない。1年、また1年と競技に専念できる貴重な時間が過ぎていく。「過去の自分を超えられないことがもどかしく、嫌になった」。いつしか、大会に向かう足取りも重くなった。

 迎えた最終学年。4月の織田記念国際が転機となる。万全の状態だったのにもかかわらず、結果は高校時代のベストすらも下回る10秒73で予選敗退。大学生活も残り少ない中、ふがいない結果に「心が折れかけた」。そんな時、「試合どうだったの?」と声を掛けてくれたのは、九共大大学院2年の先輩で、女子円盤投げ日本記録保持者の郡菜々佳だった。

 悩みを全て吐き出すと、こんな助言が返ってきた。「目標を高く持つのはいいけど、目標に到達するまでの過程を大事にしないと」。世界を舞台に戦う憧れの先輩の言葉には重みがあった。「前の試合よりいい結果を出して、小さい目標を積み重ねようと思えるようになり、リセットされた」と心が軽くなった。

■学生日本一へ

日本学生個人選手権で自身初の全国入賞を果たした新崎仁也

 精神面の変化は結果に如実に表れる。5月上旬の沖縄選手権は10秒57、中旬にあった大学の記録会も10秒4台で走り、心身が充実した状態で6月上旬の日本学生個人選手権に挑んだ。追い風2・5メートルの参考記録ながら予選を10秒37で走り、さらに同日の準決勝は同じ風速下で10秒35の県記録と同タイムを記録した。

 いずれもスタートで出遅れ、掲示板を見た時は「正直びっくりした」と振り返る。満足のいく走りではなかっただけに「自信になったし、伸びしろもまだあると思えた」「2カ月前の自分と気持ちが全然違う。どこまで伸びるか楽しみ」とポジティブな言葉が次々と口を突く。

 一方、自身初の全国決勝の舞台は「速く走ろう」という意識が強すぎて力みが生まれ、終盤に失速して10秒51の6位。「まだまだ弱い」と実感し、向上心に火が付いた。

 今後の課題はスタートの改善だ。「足の運び方を良くしたい」とよりスムーズな加速を描く。

 6月下旬の日本選手権にも2年ぶりに出場する資格を得た。結果を積み重ね、狙うは9月の日本インカレでの学生日本一。「まずは県記録を更新する。インカレでは決勝に残るだけじゃなくて、しっかり決勝で戦って優勝したい」と奮い立つ。スランプを乗り越え、前向きさを取り戻した気鋭のスプリンターが頂へ駆ける。

(長嶺真輝)