「落語のようなホントの史実」志ぃさーさんの語りで彩る 映画「サンマデモクラシー」山里監督に聞く(下)


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子
「サンマデモクラシー」について語る監督・プロデューサーの山里孫存さん=6月29日

 桜坂劇場(那覇市)で公開されているドキュメンタリー映画「サンマデモクラシー」(沖縄テレビ制作)がヒットしている。山里孫存(まごあり)監督に米統治下の「落語のようなホントの史実」を描いたドラマチックな手法について聞いた。

▼山里監督インタビュー(上)

 
Q:米統治下で、大衆魚サンマへの不当課税を訴えた女将・玉城ウシさんらの奮闘をたどる展開はエンターテインメント性が高い。ウチナー噺家・志ぃさーさんの落語調の語りが柔らかい芯になっている。起用した狙いは何か。

「裁判の原告だった玉城ウシさんを直接語れる人がほとんどいなかった。関係者の断片的な記憶と裁判の史実をどう融合させて描くか悩んでいたころ、構成作家の渡邊修一さんから、落語を取り入れてはどうかと進言された。その瞬間、志ぃさーさんにストーリーをひもといてもらうことをひらめき、作品が一気に動いた。沖縄戦で傷ついた県民を笑いで癒やした小那覇舞天さんの魂を継ぐ一人が志ぃさーさんだと思っていた。絶妙なアドリブを利かせた落語調の語りが作品に彩りを出してくれた」

Q:川平慈英さんのナレーションも効果的だ。

「作品に欠かせなかったのが慈英さん。エネルギッシュな語りが厚みをもたせてくれた。キャラウェイ高等弁務官の『沖縄の自治は神話』発言をそばで聞いていた慈英さんの父・朝清さんにも登場してもらい、貴重な証言も盛り込めた」

Q:全国放送されたテレビ番組では、著名な映画監督らから「あえて、瀬長亀次郎さんを登場させなくてもいいではないか」という指摘があったと聞く。意識した面はあるか。

「沖縄への思いが深く、本土の国民に沖縄をきちんと発信したいと考えている制作者から、玉城ウシさんのインパクトを薄くしてしまうから、亀次郎さんは必要か―と指摘された。人物を掘り下げ、エピソードを盛り込める劇場版は、米軍統治下で弾圧を受けても体を張って闘い続け、時代のヒーローだった亀次郎さんを描くことで、民主主義獲得を望んだ当時の沖縄の民意のうねりを体感してもらいたいと考えた」

Q:作品は今の沖縄を考える上でも示唆に富む。

「民主主義と自治獲得に力を尽くしたウチナーンチュの群像劇に仕上がったように思う。なぜ県民が日本復帰を切望したのか、なぜ今も基地があるのか、お年寄りがどうして辺野古に座り込まないといけないのか―。半世紀前の沖縄をたどることで、今の沖縄がよく見えるように思う。全国で20館以上での上映が決まっている。本土の国民にもぜひ観てほしい」

(聞き手 編集局長・松元剛)

▼沖縄で戦後初のアナウンサー 島に響かせた希望の声 川平朝清さん

▼「一つの日本」に抱いた失望、妻と貫いたフェア精神 川平朝清さん

▼「父からバトン渡された」 ジョン・カビラさん、親子で沖縄戦後史語った番組が脚光