ヤンバルクイナの保護に奔走した獣医師 未来へつなぐのは「市民の力」 世界遺産登録に


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ヤンバルクイナの保護活動を振り返るNPO法人「どうぶつたちの病院沖縄」の長嶺隆理事長=うるま市

 「沖縄の自然の価値を世界が認めた。“世界タイトル”を冠して子どもたちに渡せるのは理屈抜きにうれしい」。約20年にわたり地域、研究者、企業、土木工事の事業者など数多くの人たちと、多方面からのヤンバルクイナの保護に奔走してきた、NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の理事長で獣医師の長嶺隆さん(58)は、世界自然遺産登録の喜びをかみしめる。

 止まらない輪禍やマングースの北上で、ヤンバルクイナ絶滅の危機感が高まっていた2006年、長嶺さんたちは世界の知恵で絶滅を回避したいと国頭村安田で国際会議を開いた。国際自然保護連合(IUCN)の専門家も招き、ヤンバルクイナの個体群存続可能性を分析すると、結果は「このままでは長くても15年以内に絶滅」だった。

 すでに地元安田区と、ネコの適正飼育や野生動物の救急救命センター設置、事故に遭いにくい道路設計などに取り組んでいたが、一刻の猶予もないと長嶺さんたちは飼育繁殖にも着手した。今では環境省の保護増殖事業として飼育個体の第2世代誕生、野生復帰などの成果につながる事業の母体となった。

 シミュレーションで絶滅と算出された「15年後」は2021年、今年だ。マングースなど外来種対策も実り、ヤンバルクイナは生息範囲を広げ、カエルなど小動物も増え始めた。

 しかし生まれ育ったうるま市では、空を覆うほどいた数千羽ものシギやチドリが海岸の埋め立てで消えた。「生物が減るのは一瞬だ」と身に染みている。この自然を次世代につなぐには「特別な誰かが決めるのではなく、市民が知恵を出し、話し合って責任ある決定をしていくしかない」と力を込めた。

(黒田華)

 

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