「長っ尻」台風6号がもたらしたもの 佐野真慈(宮古支局)


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written by 佐野真慈(宮古支局)

 ぶぶ漬けでもどうどす? 長っ尻な客に「そろそろお帰り」と遠回しに伝える京都の言い回しを使いたくなった。島民も「記憶にない」ほど長っ尻だった台風6号。宮古島市は79時間にわたって暴風警報が発令された。

 商店の棚はすっからかん。ガソリンスタンドは休業。極め付きは停電だ。島は一時、5千戸以上が停電した。うち1戸は琉球新報宮古支局兼わが家だ。

 台風取材を終えて支局に戻り、一息ついていた22日夜、「プツン」と真っ暗に。丸1日続いた。頭にライトをくくり付け、パソコンとスマホのバッテリーを気にしながら記事をしたため、窓を割ろうとする風におびえた。

 暑い。暗い。朝をこんなに待ち遠しく思ったことはない。沖縄で暮らして16年。初めての経験だった。たった1日でこの不安感だ。2日、3日と停電が続く人、ましてや避難所で過ごす住民の不安たるやと取材に奔走した。

 これまでの取材は当事者でないゆえの物足りなさがあったかもしれないと自省した。“長っ尻”がもたらした経験だ。

台風6号の強風で飛ばされてきた子猫2匹=1日午前、琉球新報宮古支局

 6号がもたらしたものがもう一つ。乳飲み子が来た。

 風雨が吹き荒れる市内を警戒取材中の私の車の前に小さな塊が二つ、強風に飛ばされながらコロコロと転がってきた。慌ててブレーキを踏んだ。生まれて間もないずぶぬれの子猫2匹だった。

 今、このコラムを書いている横でピーピーと力いっぱい鳴いている。1日6回、人肌に温めたミルクをほ乳瓶でやらないといけない。頭を抱えている。

(宮古島市、多良間村担当)


ゆんたくあっちゃー 県内各地を駆け回る地方記者。取材を通して日々感じることや裏話などを紹介する。