【深掘り】与那国町長選で糸数氏初当選 現町政に反発 保革一致 衆院選や陸自配備に波及も


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与那国町長選に初当選し喜ぶ糸数健一氏(前列左から3人目)=8日、与那国町

 町政刷新を掲げた糸数健一氏(67)と、外間守吉町長の路線継続を訴えた自民公認・前西原武三氏(67)との事実上の一騎打ちとなった与那国町長選は、糸数氏が前西原氏を122票差で破り、初当選を果たした。有権者数1300人余りの島で「大差」がついたと受け止められ、「国境の島」の選挙結果に驚きが広がった。

 ある政府関係者は、糸数氏も自衛隊の駐屯を容認しているため「安全保障面で防衛施策に影響はない」との見方を示す。ただ、今回の選挙で糸数氏は革新側と歩調を合わせて選挙戦を展開しており、今秋の衆院選への影響も考えられる。陸上自衛隊の石垣島配備など、先島の配備計画全体に波及する可能性もある。

 批判の声

 糸数氏は、大差の勝利を「外間町政路線継続への反発が大きかった」と受け止めている。実際、選挙期間中に、4期16年の外間町政について、町民からは「一部が利益を得るというひずみが生まれた」との批判の声が聞かれた。元々、外間町長を支援していた保守系の有権者は「前西原氏個人に信頼がなかったというより、外間町長への反発だ」と現町政を批判した。

 前西原氏を応援した自民党県連の幹部は「新型コロナもあり、国会議員や県議が島に入れる状況ではなかった。(糸数氏も)元々は同じ仲間で、自衛隊誘致にも理解を示している。選挙結果を分析して、地元県議などと、関わり方を検討していく」と述べた。

 200人の票

 選挙戦で、約200人とされる自衛隊員票の行方が一つの焦点だった。自衛隊票によって、駐屯地を受け入れた外間氏後任の前西原氏に優位に働くとの見方が支配的だったが、実際には糸数氏にも一定数の票が流れたとみられる。

 自衛隊配備計画が持ち上がって以降、容認する「保守」と、反対する「革新」とで町内の意見が分かれた。糸数氏は「与那国に陸上自衛隊は必要」との立場で、革新とも協定を結び、自身のスタンスを明確にした上で今回の選挙に臨んだと説明する。すでに駐屯地が運用される中、自衛隊配備を巡る意見の違いを越えて「反・外間町政」でまとまることで、糸数氏の票の上積みが進んでいった。

 一方、岸信夫防衛相は選挙戦が告示した3日、陸自与那国駐屯地に「電子戦」の専門部隊を、2023年度をめどに配備すると表明し、将来的な駐屯地の「機能拡張」を打ち出した。今後議論が進むと、自身の支持層でも意見が分かれる可能性もあり、糸数氏がどのように折り合いを付けるのか、手腕が試される。

 (池田哲平、西銘研志郎)