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9.11から20年、米金融街最大の脅威今どこに【WSJ厳選記事】


マーケット


技術の進歩で市場は一変、サイバー攻撃が最大の脅威に
 


By Alexander Osipovich
2021 年 9 月 10 日 11:15 JST 更新プレビュー


 2001年9月11日の同時多発テロ発生後、米国の金融市場は1週間近くにわたって閉鎖された。24時間取引が可能になった現在の世界では、想像もできないことだ。

 ここ20年、技術の進歩と米市場のインフラ強化へ向けた広範な取り組みにより、こうした取引停止はまれになった。新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた昨年は、株価急落や記録的な取引量が見られた上、金融街は突如としてリモートワークへ移行したが、株式市場は営業を継続し、基幹システムもほとんど不具合なく稼働した。

 しかし、投資家や政府関係者の間では、物理的な力ではなく、高度なハッキングツールを使った攻撃によって、金融市場が機能不全に陥る可能性が依然としてあるとの懸念が聞かれる。

 2001年9月11日に米証券取引委員会(SEC)を率いていたハーベイ・ピット元委員長は、「生活のデジタル化は一般的には大きな恩恵をもたらしたが、システムへのハッキング能力という点では、さらに大きな破壊の種をまいてしまった」と語る。「それが現在、9・11に匹敵するものだ。日々、『ブラックスワン』のような事象が起こる可能性が潜んでいる」

 20年前の米同時多発テロは、金融システムの物理的破壊に対する脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした。ツインタワーが倒壊し、2000人余りの犠牲者が出る中、金融業界に欠かせない通信システムも破壊された。株式市場は1933年以来で最長の4営業日にわたり閉鎖され、作業員が復旧作業にあたった。債券市場は2日ほど閉鎖され、遠く離れたシカゴの先物取引所も一時閉鎖された。

 証券会社や取引所はその後、基幹システムの多くをマンハッタン南部から移動させた。規制当局は、災害時にも市場が営業できるよう、各企業に追加点検の実施を求めた。

 昔ながらの取引所がなくなったことで、市場は物理的な攻撃を受けにくくなった。2001年当時、ニューヨーク証券取引所(NYSE)のフロアには何千人ものトレーダーが毎日集まっていた。NYSEの建物に被害はなかったものの、取引所への電話回線やデータリンクの多くが切断されたため、世界貿易センタービル跡地「グラウンドゼロ」の復旧作業が続いている中、NYSE関係者はトレーダーやその他の人員をフロアに呼び戻すのをためらった。

 今では、NYSEをはじめとする証券取引所の取引は電子化が大きく進み、ニュージャージー州にある何の変哲もない、厳重に警備されたデータセンターで処理されている。NYSEは現在、米インターコンチネンタル取引所(ICE)が所有し、トレーディングフロアは維持されているが、フロアの人員ははるかに少ない。新型コロナの影響で昨年、2カ月ほど閉鎖された際も、その影響はほとんど象徴的なものにすぎなかった。

 「9月11日の時点では、市場がどう再開できるのか考えもつかなかった。金融市場の神経中枢が壊滅していた」と語るのは、ナスダックの元幹部で、現在は投資会社コンテクスト・キャピタル・パートナーズを率いるエリック・ノール氏だ。「今では、市場が開かれないような状況は考えられない。はるかに多くの耐性がシステムに組み込まれた」

 2000年代半ばに行われた規制改革により、NYSEとナスダックによるデュオポリー(複占状態)が解消され、新興の取引所が競争しやすくなったことがその一因だ。NYSEとナスダックに上場している株式は最大16の取引所で取引されており、一つの取引所が停止した場合、これらの取引所は事実上、互いのバックアップとして機能する。対照的に、20年前には、NYSEに障害が発生すれば、NYSE上場株式が実質的に取引停止に陥った。

 「当時の世界は、NYSEがくしゃみをすれば、他の市場が風邪をひくような状況だった」と、NYSE元幹部のボブ・ジトー氏は言う。

 災害によって株式市場が閉鎖されたのは、2012年の大型ハリケーン「サンディ」の襲来で2日間にわたり閉鎖されたのが最後だ。取引所は事前にバックアッププランを準備していたものの、銀行や証券会社は、フロアを閉鎖して全て電子化するというNYSEの非常事態計画に対応する用意が調っていないと懸念し、閉鎖を強く求めた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は当時、そう報じていた。

 SECはその2年後、多くの義務付けの一環として、取引所間で連携した災害計画を毎年テストすることを義務付ける規制を導入。取引所のベテランたちは、この規則のおかげでトレーディングの不具合が減り、次に災害が起きたときにも市場が持ちこたえられるという信頼が高まったと述べている。

 それでもなお、脆弱性は残る。フィデリティ・インベストメンツ、ロビンフッド・マーケッツ、バンガード・グループなど人気のオンライン証券会社は、新型コロナ感染拡大の発生以降、不具合に見舞われている。その多くは、トラフィック急増で顧客が自社ウェブサイトやアプリにアクセスできなくなったケースだ。

 ハッカーの脅威は、政府当局者や金融街の幹部を悩ませている。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は4月、CBSとのインタビューで、サイバー攻撃は2008年の金融危機を引き起こしたさまざまな要因を上回る、金融システムにとって最大のリスクになったと述べた。

 35億ドルの資産を運用するウェルスマネジメント会社、ジェントラストのジム・ベソー最高投資責任者(CIO)は、金融システムへのサイバー攻撃が9・11以上に投資家の信頼を揺るがしかねないと指摘する。

 ジェントラストは攻撃の影響をモデル化するため、定期的にポートフォリオのストレステストを行っているという。同社は最悪のシナリオとして2週間の市場閉鎖を想定している。

 ベソー氏は「広範囲にわたるサイバー攻撃が起こった場合、物事がいつ正常に戻るのか、不確実性が高まるだろう」とし、「それほどの不確実性は、市場にダメージを与える恐れがある」と語った。




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