<書評>『ぼくの沖縄〈復帰後〉史プラス』 それぞれのあの頃へ戻る


社会
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『ぼくの沖縄〈復帰後〉史プラス』 新城和博著 ボーダーインク・1320円

 この本は、1972年沖縄が日本に〈復帰後〉起こった社会的出来事を1年ごとに振り返る、沖縄現代史を丁寧にたどる一冊だ。取り上げられるのは、政治的なことに限らない。ドルから円への通貨交換、道路が左側交通方式に変更された「ナナサンマル」など〈復帰〉にまつわる出来事から、安室奈美恵の活躍、「ちゅらさん」ブーム等、文化・芸能まで幅広く紹介。世代を超えて語りたくなる話題が詰まっている。

 併せて著者は、自分がその頃どうしていたか、という個人の記憶や思い出も書き込んでいく。9歳で〈復帰〉を迎えたこと。活気づく復帰20周年の年、円形脱毛症になったこと。95年の沖縄県民総決起大会に幼い子どもと一緒に参加し、その後も家族で参加し続けたこと。どの話題も、友人との会話で挙がる身近な生活の一部のようで、さりげない。堅苦しくない。「あなたはこの頃、どうしていましたか?」と行間から問いかけられるような、自然とこちらも話してしまいそうな、親しみを感じさせる。独特のユーモアある文体だ。そのうち、読者は自分自身の過去を振り返り、思い出そうとし始める。

 私にとって、〈復帰後〉の沖縄はどこか遠い世界のようだった。祖父母や親世代が生きた、懐かしい過去。しかし本書を読むうち、ある出来事が脳裏によみがえった。2000年7月20日、沖縄サミット開催前日。高校1年生の私は、嘉手納基地を包囲する「人間の鎖」に参加した。大人の車に同乗し、知らない人同士で手をつないだ。著者が家族で参加し手をつないだその先で。

 あとがきで著者は書く。「〈復帰後〉という鏡に写るじぶんの姿を眺めながら、それぞれのあの頃の沖縄に戻って、少し先の未来の夢を、様々な世代、地域の人たちと妄想してみたい」

 来年、沖縄は〈復帰後〉50年を迎える。本書を読み、家族、友人知人、身近な所で自由に沖縄を語ってみてはどうだろう。そこに、明日に続くヒントがあるかもしれない。そう思わせる力をくれる一冊だ。(渡慶次美帆・くじらブックス店主)


 しんじょう・かずひろ 1963年那覇市生まれ。出版社勤務を経て90年ボーダーインクの立ち上げに参加、現在に至る。著書に「うちあたいの日々」「ぼくの〈那覇まち〉放浪記」など多数。

 


新城和博 著
新書判 224頁
※第3回この沖縄本がスゴい!(2021年)受賞

¥1,320(税込)