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世界のインフレ高進とは無縁、日本が特異な理由【WSJ厳選記事】


THE OUTLOOK

日本では物価の横ばいが続くが、それは成長を阻害する硬直さの表れかもしれない



By Megumi Fujikawa
2021 年 11 月 22 日 17:10 JST 更新

 

 【東京】米国や欧州がインフレ高進に苦慮するなか、日本は逆に、消費者物価をほぼ横ばいに保つ方法を示している。

 何十年も超低水準の物価動向が続いたため、日本の買い物客は値上げに抵抗感があり、企業の側がそれを試すこともめったにない。企業は現金を内部にため込み、投資には消極的だ。硬直した雇用市場では、労働者が気軽に成長企業に転職し、収入を増やすことができない。

 多くの国はこのやり方に追随したいとは思わないだろう。低価格の常態化は、エコノミストが「日本化」と呼ぶ現象(低インフレ、低金利、低成長)の一環であり、政策担当者は長年にわたり、ここからの脱却を目指してきた。

 「企業の安定した経営姿勢、価格を変えないというのは短期的なショックにプラスの面を見せている一面がある」。元日本銀行政策委員会審議委員で、現在は野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストを務める木内登英氏はこう指摘する。「一方、もうちょっと長い目で見ると、経済の回復が遅れ、前向きな産業構造の転換を妨げてしまう」

 日本の10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比0.1%の上昇にとどまり、変動の大きい生鮮食品とエネルギー価格を除いたベースでは0.7%下落した。一方、ユーロ圏CPIは10月に同4.1%上昇し、米国は同6.2%上昇と31年ぶりの高水準に達した。




 原油や商品、マイクロチップの価格高騰など、他の国々を直撃しているインフレ圧力の多くは日本にも当てはまる。違っているのは、企業や消費者の反応の仕方だ。

 米大企業の多くが値上げと利益確保に動く一方で、日本のスーパーマーケットチェーン大手イオンは、プライベートブランド(PB)の一部食料品価格(小麦粉、マヨネーズ、スパゲッティなど)を年内は据え置くと発表した。

 イオンの広報担当者は「お客様の生活防衛意識が高まっている。必需品にたくさんお金をかけたくないというところはある」と説明した。

 日用品・衣料品小売りの「無印良品」を運営する良品計画は、7月から11月にかけて約190品目を値下げした。その一例が羽根まくら(税込み690円)で、新型コロナウイルス禍で在宅時間が増えたことを背景に、以前より42%安くした。広報担当者によると、多くの商品を値下げしたファブリック分野では、9月と10月に売り上げが伸びたという。

 日本の高齢化と人口減少は、人々が引き続き慎重な行動を取るよう促すため、慢性的な消費者需要の不足につながるとエコノミストはみている。

 日銀の黒田東彦総裁は10月末の記者会見で、日本では「海外で懸念されているようなインフレ高進のリスクはきわめて限定的であると考えている」と述べた。

 問題は、結果として生産や賃金が伸び悩むことだ。野村総研の木内氏によると、物価上昇は、いま需要が最も強いのはどこで、投資をどう配分すべきかを企業が知るためのシグナルだという。そのおかげで、やがて労働者は台頭するセクターに流入し、生産性が向上したり、より高い賃金を稼げるようになったりする。同氏によると、日本ではこのメカニズムが機能していないという。

 今年7-9月期の時点で、日本の国内総生産(GDP、インフレ調整後)はコロナ前のピーク期に比べて4.1%縮小したのに対し、米国のGDPは1.4%拡大している。

 「アメリカは原材料高、資源高になった時にそれを販売価格にちゃんと転嫁できるビジネスの風土があり、格差があっても賃金が上がる人はすごく上がっている」。大和証券のチーフマーケットエコノミスト、岩下真理氏はこう指摘する。これに対し、「日本は人が足りなくても上がらない」

 近年、日本ではパートタイム勤務や柔軟な働き方が広がる一方で、大企業は依然として、比較的硬直した雇用慣行を維持している。中途採用者をほとんど受け入れず、終身雇用の従業員に定年まで職を保証している。

 この慣行により、コロナ禍のさなかも日本の失業率は3%程度あるいはそれ以下に抑えられてきた。米国の失業率は2020年のピーク時には15%近くに達した。だが裏を返せば、全米各地で続々と生まれているような高収入の職に飛びつく機会が日本人にはなく、労働者の所得はほぼ横ばいとなっている。

 日本の物価を押し上げようと何年も取り組んできた日銀でさえ、今年度は8年ぶりに、一般職員の基本給を一律に引き上げるベースアップを見送ることにした。賞与も若干引き下げられた。

 日銀は、原材料費やエネルギー価格の高騰が消費者物価の上昇を招き、日本のゼロ・インフレ思考を大きく揺さぶることに期待を寄せている。

 それが現実になる兆しが見え始めている。山崎製パンは今月初め、小麦粉や砂糖、エネルギー、輸送に伴うコスト高を受け、パン製品の価格を来年1月1日から平均7.3%値上げすると発表。キッコーマンは大豆などの価格上昇を理由に、しょうゆの価格を2月から4~10%引き上げると発表した。

 黒田氏は、コスト上昇に対処するため、同じことをする企業が増えると予測している。「完全に消費者物価へ転嫁されていくことは、日本の企業風土の中ではなかなかありそうもないが、ある程度は消費者物価へ転嫁されていくことにはなると思う」と同氏は述べた。




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