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中国軍機の大挙飛来、台湾市民の危機意識に変化【WSJ厳選記事】


BY CHAO DENG 
2021 年 10 月 20 日 10:45 更新JSTプレビュー


台北

対中関係の緊張悪化で台湾市民に増す不透明感

【台北】大学院生のアンジェラ・オウさん(23)は幼い頃から、台湾で地震が起きたらテーブルの下に隠れ、給水源の近くにとどまることを学んできた。だが、中国の攻撃に対する備えについてはほとんど知らない。

オウさんは「そもそもどこに隠れるのか」と問いかけ、「私には分からない」と話す。

2300万人の台湾市民にとっては長年、中国との武力衝突の可能性よりも、自然災害の方がはるかに高い関心事だった。ところが足元では、中国の攻撃に対する懸念が市民の間で確実に広がっており、有事への備えが十分ではないとして危惧する声も出ている。

10月に入って以降、中国人民解放軍(PLA)は戦闘機や爆撃機を含む軍用機およそ150機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に送り込んだ。中国による威嚇行為としては過去最大で、台湾は空軍機を緊急発進(スクランブル)させて対応せざるを得ず、西側諸国の間でも警戒が強まった。

中国は台湾を自国の一部とみており、必要なら武力での統一も辞さない構えだ。軍用機の飛行については、これまで台湾が正式に独立を目指さないよう狙った措置としか明らかにしていない。中国が詳細な説明を控えていることで、単なるおどしか、それとも実際の攻撃への準備なのか、台湾では軍分析官から一般市民まで中国の意図を巡り臆測が広がっている。

中国による一連の武力誇示で、台湾市民の間では中国共産党に対する疑念が強まっているほか、前出のオウさんのように、これまで中国との戦争など想像もしてこなかった人々にとって、にわかに不透明感が増している。

台湾の野党・国民党系の新聞、聯合報が先頃公表した世論調査によると、台湾市民は総じて中国人に対して肯定的な見方をしているが、中国政府に対する否定的な見方は過去最高の70%に達した。2年前は61%だった。国民党は中国との関係強化を支持する立場だ。

米シンクタンク、ブルッキングス研究所が5月に実施した別の調査からは、今月に人民解放軍の軍用機が飛行する以前から、一部の台湾市民が中国の侵攻リスクについて懸念を強めていたことがうかがわれる。先週公表されたその調査によると、中国との戦争を心配しているとの回答は約58%に上ったほか、46%が習近平国家主席は5年前よりも台湾への攻撃に踏み切る可能性が高まったと回答した。

映画プロデューサーの汪怡昕(アイザック・ワン)氏(51)は「今すぐに起こる可能性は低いと思うが、真剣に準備しなければならない」と話す。「台湾自ら戦う必要がある」

汪氏は台湾軍兵士として、中国本島から沖合約6マイル(約10キロ)にある高登島に配備された経験を持つ。高登島は1990年代半ばに、中国軍が真っ先に狙う場所だと考えられていた。汪氏は銃と弾丸の場所さえ教えてくれれば、再び手に取る用意があると話す。

台湾の政党「時代力量」の政策アナリスト、リュウ・イーチェン氏(27)はこのほど、台湾の防衛戦略について理解を深めるため、友人らと勉強会を始めた。時代力量は元々、2014年に起こった中国による対台湾投資を拡大する政府計画に反対する運動から派生して結成された政党だ。

同氏は「現時点で(有事が発生した際の)市民のための計画は全くないことをわれわれは指摘しようとしている」と話す。その上で、市民を危機に備えさせるため、政府は一段の取り組みが必要だとした。

台湾の蔡英文総統の報道官は、人民解放軍の挑発行為には心理戦の要素があると指摘。「われわれはそれに引き込まれたくない。だからと言って、準備ができていないわけではない」と述べた。その上で、蔡氏は台湾の主権と「台湾市民の基本的な権利」を守るとした。

邱国正・国防部長(国防相)は今月、議会で市民への情報提供の取り組みについて追及され、同部傘下に予備軍動員を担当する新組織を創設し、各政府機関との連携を強化すると明らかにした。国防部幹部は同日、2022年3月までに策定を完了する危機マニュアルに向けて、専門家の意見を募っているところだと議会で語った。

台中市在住のソフトウエアエンジニア、マロス・ライさん(35)は当局からのアドバイスなど待っていない。彼はドナルド・トランプ前米大統領が昨年、高官を台湾に派遣して中国への圧力を強めて以降、非常食の確保に着手した。中国のミサイル攻撃で自宅待機を余儀なくされる事態に備え、台所には3カ月分の食料が蓄えられている。

ライさんは自宅近くに軍基地があるとし、「今では(有事の)可能性がはるかに高まった」と話す。「台湾市民の多くは話したくないと考えている。悲しい側面があるからだ」

とはいえ、台湾市民の間では、中国が踏みとどまらざるを得ない理由は多いとの意見も根強い。台湾に侵攻した場合の中国経済への影響や国際社会での地位低下のリスクに加え、後方支援する上で厄介な台湾海峡を越えての軍事攻撃に人民解放軍が踏み切るのか、疑問視する見方もある。

ただ、中国と台湾の軍事力の差は歴然で、中国の脅威に対して警戒することがそもそも意味があるのか疑問視する声も上がる。中国が3月に明らかにした2021年の国防支出は6.8%増の2080億ドル(約23兆7800億円)と、台湾国防予算の13倍余りの水準だ。

世論調査では、中国から攻撃されれば、台湾のために戦うとの回答が大半に上るが、専門家は、実際に衝突が起きた場合に、どれくらいの市民が武器を取って戦うのか予測することは困難との慎重な見方を示している。

台湾当局系の研究所、中央研究院(アカデミア・シニカ)が5月に実施した世論調査によると、中国政府は台湾の敵とする回答は約45%で、2018年の25%から上昇した。




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