<書評>『沖縄を平和の要石に 2』 戦争の危機、沖縄視点で論じる


社会
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『沖縄を平和の要石に 2』東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター編 芙蓉書房出版・2200円

 米中対立、台湾有事、南西諸島要塞(ようさい)化、今ある戦争の危機に関して世界情勢を俯瞰(ふかん)した現状分析に始まり、本土復帰後49年の沖縄で、基地なき姿や経済自立を展望し、戦場となる危機やその中でのメディアの役割を語る4回にわたる鼎談(ていだん)がある。ミサイル基地・自衛隊配備の宮古、与那国、石垣からの報告、仏教徒の視点から見た遺骨問題があり、世界自然遺産登録の光と影を専門家が指摘し、さらに沖縄文学、アート、島うたの力を表現者が語り、韓国の研究者が朝鮮戦争の歴史を説く。

 さまざまな主題と濃密な内容は年刊ジャーナルとして圧巻である。それは、とりもなおさず東アジア共同体研究所、琉球・沖縄センターの沖縄における幅広い多様な活動と高い貢献度を示すものでもある。手に取った本の重さに、沖縄に関わり、沖縄を憂い、沖縄の平和を希求する26人の人々の熱い沖縄への思いがある。それらベクトルが一斉に指し示すのは「戦争前夜の危機に対する抗い」である。

 政権終焉(しゅうえん)後も菅政権、岸田政権と続く安倍・麻生政治で、日本・沖縄をめぐる政治社会情勢は急激に悪化し、気づくと戦争前夜の真っただ中に沖縄が放り投げられている。心に残るのは山城博治氏の鼎談での言葉だ。「小説『亀甲墓』では、ある日、どろどろ、どろーんと音が鳴って、なんだ、なんだという内に戦争が始まった。一般庶民からするとそんなものかもしれない。戦争が来るという実感は無い。持てない、持たせない、意識的に報道もさせないのかもしれない」。まさに現状を言い得ている。報道もあまりない中で日常が続く。陰で着々と進む戦争準備は終了間近で危機は日々大きくなるが、日常は続いている。

 軍機のごう音響く沖縄でも人々の意識にはギャップがある。基地被害に無縁な生活に浸る本土と沖縄のギャップも大きい。しかし、どろーんと鳴ってからでは遅い。大手メディアが報じない沖縄を犠牲にする戦争の危機を沖縄の視点から徹底的に論じた本書は貴重だ。命を守る行動のため一読をお薦めしたい。

 (与那覇恵子・名桜大学非常勤講師)


 東アジア共同体研究所 鳩山由紀夫元首相が政界引退後2013年設立。琉球・沖縄センターは基地問題、沖縄の未来構築の議論、政策提言などを行っている。年刊ジャーナル「沖縄を平和の要石に」は昨年創刊。