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粟国村、教育長が2年8カ月不在 議会で人事案否決4回、しわ寄せは子どもたちに 識者「県は早急に行政指導すべきだ」<ニュースのつぼ>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
粟国村

 【粟国】粟国村の教育長が2019年8月から約2年8カ月にわたって不在となっている。任期満了で前教育長が退任した後、村議会(山城雅雄議長、定数7)は計4回、人事案を審議したが、いずれも賛成少数で否決された。反対した一部の村議らは理由を明言しないが、支持者の顔色をうかがっているのでは、との見方が広がる。与党内でも一致が見られず、同意を得られるかは見通せない状況だ。教育行政のトップ不在という異常事態に、教育現場や住民からは早期解決を求める声が上がる。

 【粟国】粟国村の教育長が2019年8月から約2年8カ月にわたって不在となっている。任期満了で前教育長が退任した後、村議会(山城雅雄議長、定数7)は計4回、人事案を審議したが、いずれも賛成少数で否決された。反対した一部の村議らは理由を明言しないが、支持者の顔色をうかがっているのでは、との見方が広がる。与党内でも一致が見られず、同意を得られるかは見通せない状況だ。教育行政のトップ不在という異常事態に、教育現場や住民からは早期解決を求める声が上がる。

判断できず

 新型コロナが感染拡大し始めた2020年2月、国は全国の学校に臨時休校を要請。県内34市町村が休校する中、村教育長不在の粟国村の休校決定は約1週間遅れとなった。関係者は「トップが不在で指揮系統がはっきりせず、判断できなかった」と明かす。

 教育長の職務は教育現場の指導のほか、教育に関する村財産の取得・処分、規則・条例改正の提案など多岐にわたる。

 地方教育行政法の規定で、教育長の代理は教育委員が担う。事務決済は村教育委員会の教育総務課長が代行している。

 教育長は必要に応じて教育課程の編成や生徒指導にも関わる。村教委はこれらについては学校現場と相談しながら進めてきた。

 一方、最高責任者の不在でコロナ禍の休校や夏休み延長など判断が難しいこともあった。村教委は校長やPTA会長らと協議し判断してきたが、22年度の人事異動で校長と教頭は離任。教育現場にこれまでの村の教育行政を知る人がいなくなった。「教育長が決まらないことでしわ寄せが行くのは子どもたちだ」と怒りの声も聞かれる。

議会の不一致

 19年8月と20年1月に前村長の新城静喜氏は教育長を続投させる人事案を提案したが、議会審議では、在任中にあったとされる不適切発言などが問題視され、承認は得られなかった。

 20年7月、村長の改選で、村職員だった高良修一氏が現職を破り初当選。改選後初議会となる8月臨時会を前に与党5人(当時)には副村長や教育長の人事案を説明した。教育長に総務課長や議会事務局長を歴任した村職員を起用する案を示し、その際に異論はなかったというが、本会議で否決された。

 同年の9月定例会にも同じ人事案を提案したが、教育現場での経験がないことから「畑違い」との指摘が相次ぎ、最終的に議長裁決で否決となった。

 反対した村議の一人は「経歴は問題ない」としたが、それ以上の言及は避ける。人事案に反対することについて別の村議は「自分の支持者を立てたいのではないか」と同僚の思惑を推し量った。

 21年3月定例会には前回反対した村議が賛成に回る方向だったが、支持者から理解を得られなかったという。村当局は提案自体を見送った。以降も村出身の教員経験者が自ら名乗り出たが、議員の支持を得られないことが分かり、人事案の提出にも至らなかった。

 山城議長は「学校も教育委員会もやりづらいと思うが、行政から(新たな)人事案が上がらないとどうしようもない。一度否決された人以外を提案してほしい」と注文した。

 高良村長は「子どもたちの将来を考えると、これ以上(不在期間を)伸ばすことはできない」と早期解決したい考えを示した。

全国で事例少なく

 文科省の2018年度調査で、同年度中に3カ月以上教育長が不在となったのは、全国自治体1785中の26市町村と極めて少ない。後任候補者の選定に時間を要したことや議会の不同意が主な理由だった。

 県内では17年6月から2年9カ月、与那国町で議会同意が得られず、教育長が不在だった。県教育委員会によると、22年3月1日時点で教育長が不在なのは県内では粟国村のみ。担当者も「2年半(の不在)は大きい」と問題視する。

 県教委は21年秋と22年3月に、村教委に電話で事情を尋ね、改善を促した。元琉球大教授で教育行政学が専門の佐久間正夫氏は「(教育長の長期不在は)子どもたちの教育を受ける権利の侵害につながりかねない」として、早期解決を求めた。

(比嘉璃子)


<識者談話>佐久間正夫・元琉球大教授 議員の認識問われる

 教育長不在は、憲法26条で定める教育を受ける権利が十分に保障されていないといってもいい状況だ。地方教育行政法21条で教育委員会の職務権限は19項目に及ぶ。教育長不在では、教育委員会の職務を十分に果たすことは難しいと思われる。

 地方教育行政法13条2項は教育長が欠けた時、教育長が指名する委員が職務を代行すると定めている。粟国村のように、最初から教育長がいないという事例は制度上想定されていない。早急に解決されるべきだ。

 安倍政権下の教育改革で地方自治体の首長が教育長候補者を推薦するようになり、教育行政と政治とのつながりが強まった。その結果、教育長が長期間決まらないような事態が起こる。

 地方教育行政法4条1項によれば、教育長に必要な資格要件は人格の高潔さと教育行政に関する識見を有することだ。教育現場での教職経験がなくても、教育長の資格要件を満たす。憲法99条は議員などに「憲法尊重擁護義務」を課すが、粟国村ではこれに努めていないという批判も成り立つ。

 教育長不在は子どもたちの学ぶ権利の保障や教職員の仕事に影響する。議会がそれを認識しているかが問われる。コロナ禍でもあり、県は早急に行政指導すべきだ。
 (教育行政学)