【一問一答】力強い文化や精神性伝えたい 東京五輪映画の河瀨監督、沖縄シーンに込めた思い


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喜友名諒選手の金メダル獲得を報じた特別号外。朝刊の2倍のサイズがある。

 ―喜友名諒選手の活躍が映画では描かれている。

 河瀬直美監督 復帰50年の節目だが、沖縄にはまだ大戦の爪跡が残っている。琉球王国があった時代から言えば一度国の形を奪われ、戦争でほとんどが焼かれてしまう悲劇が残っている。映画の中でこんな言葉が出ている。「でもこの青い海と青い空を守り続けていければ、チムグクル、うちなーんちゅの魂を継いでいくことができるだろう」と。それを表現したかった。オリンピックの映画だが、次の世代に何か大切なものをつないでいく。人類が繁栄し、本当の意味でつながりあって、平和をつないでいく。それは喜友名選手の金メダルだけでなく、むしろ沖縄に残されているチムグクルを皆さんに知ってもらいたかった。

 ―映画に沖縄のシーンを盛り込んだのにはどういう考えがあってなのか。

 河瀬 沖縄は原初的というか神事がたくさんある。琉球舞踊の踊り手の宮城茂雄さんは舞踊、組踊のために生まれたような人。宮城さんの話を聞いて、失われた文化が組踊や琉歌にいっぱいつまっているとあらためて教えてもらった。街が変容し文化も失われていく中で空手も形の中に文化も残されていると考えた。空手は初めて五輪で採用され、当初はワンカットぐらいとは思っていた。しかし空手にフォーカスすることで、世界が大事にしないといけないものがここにあるんじゃないか、オリンピックの映画は今後、人類が五輪を続ける限り残る。そこに沖縄の文化を入れておくのは大事だと思った。

 ―琉球新報の特別号外製作場面も登場する。

 河瀬 メディアを通して沖縄の人たちがどう喜友名の金メダルをとらえているのか。琉球新報はどう号外で記事にして、号外はどう人の手に渡って、それをみんなが見て、どう歴史として語り継ぐのか。ドキュメントしようと考えた。映画には空手を学ぶ子どもたちが登場する。喜友名選手のようになりたいと憧れる人の存在はとても大事なことだと思った。

 ―撮影を通して何か発見はあったか。

 河瀬 喜友名選手のメダルによって、うちなーんちゅも見上げたものよという感情を持ったおばちゃんがいた。虐げられた感覚が年代によってはあるんだろうと感じた。島の大切な文化が新しいものに変わっていくことに嘆くお年寄りもいると感じた。沖縄、そして日本に元々あるものをもっと大切にしたほうが日本にとっても沖縄にとっても美しいし、力強い。そういう話を聞かせてもらって、そういう精神性を映画に入れさせてもらった。そんな言葉をもっと若い人に伝えていけたらといいと思った。

 ―沖縄で創作意欲をかき立てられたものはあるか。

 河瀬 島言葉が素晴らしいし、宮城茂雄さんが教えてくれた琉球舞踊、琉歌にすごくひかれている。万葉集とかは57577なんですけど、琉歌は8886という旋律で、まったく違うリズム感を持っている。琉歌の中にも届かない思いを描いたものが多くて、見えないものや、届かない思いを映画は形にしていく。もう少し勉強して沖縄で本当にちゃんと映画を撮りたいなと思った。


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