<書評>『日本を変えた男! 名護親方のいろは山に登る』 よみがえった「肝心」の金言


社会
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『日本を変えた男! 名護親方のいろは山(さん)に登る』上間信久著 琉球いろはアイランズ社・1430円

 「日本を変えた男!」一瞬、エッと思わせるタイトルである。新本紹介のキャッチコピーの帯に「名護親方=程順則からのプレゼント」とあるので、なるほどと納得する。放送ジャーナリストとして長年活躍した著者が、10年余にわたり名護親方の「いろは歌」の研究に、精力的に取り組んでいる。2年前には「琉球いろは歌の秘密」を、沖縄タイムス社から上梓。その後も、名護親方程順則の「いろは歌」への拘(こだわ)りは、止(とど)まることなく「いろは歌」に潜む「思想と心」の神髄に迫る研究に没頭。そのパワーは、ライフワークの枠を越え使命感と執念をも感じさせる。

 著者は、あとがきで『「いろは歌」は、私にとって翻弄され続けて来た琉球・沖縄を生き抜く為の、言わば「人生の指南書」になったばかりか、親方が後世に託した「人として生きる人生の粋を集めた 詠い」だと思っているのです。』と記し、心情を吐露している。

 さて、著者の論考では、名護親方の「いろは歌」47首は、22首が「肝歌」で、他の25首との「組歌」構成になっており、全ての組歌を人生の「いろは山」になぞらえ、山頂の九合目まで登る道程を、テーマごとに細かく解明し、懇切丁寧に読者に訴える。ちなみに、【一合目ゑとうの組歌・テーマは、命!この尊きモノ】ゑ《絵描ち字書ちや、筆先ぬ飾い 肝ぬ上ぬ真玉、朝夕磨き》う《惜しでぃ惜しまりみ、玉ぬ緒ぬ命 若さ頼がきてぃ、廉相に持ちゅな》は、命の尊さを悟り心を磨けと、九合目踏破への出発点に据える。

 本書の妙味は、著者の分身たちの「ソラとフウ」、「王子と姫」、「キューとミー」に語らせる対話の展開である。「六諭衍義」と将軍吉宗、島津吉貴。吉屋チルーと平敷屋朝敏、具志頭親方蔡温。尚敬王と玉城朝薫。同時代を生きた人物と名護親方との関わりである。そして、「命どぅ宝」の名セリフが、眞境名由康作の沖縄芝居「国難」で、尚寧王の台詞(せりふ)から生まれた背景にも、「いろは歌」の影響が内在する。現在によみがえった金言「うちなーの肝心」は、日本を変え世界を変える大きな力となることを、著者は確信していると見た。

(眞境名正憲・伝統組踊保存会相談役)


 うえま・のぶひさ 1947年今帰仁村生まれ、元琉球朝日放送社長。同社を退職後、琉球いろはアイランズ社を設立、代表に。現在、名護親方の「琉球いろは歌」の普及に務めている。