【深掘り】沖縄の陸自15旅団の増強案 在沖米軍施設の使用拡大の可能性も 防衛省関係者「他国にインパクト」


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陸上自衛隊と共に訓練展示に参加する米海兵隊の(奥左から)JLTVとハイマース=11月6日、那覇駐屯地(又吉康秀撮影)

 沖縄を含む南西諸島の防衛を担う陸上自衛隊の主力部隊「陸自第15旅団」に、大規模な増強計画が浮上した。那覇市に司令部を置く同旅団を再編し、指揮官の階級も格上げする見込みだ。中国の軍事的台頭に伴う「南西シフト」が進み日米の軍事連携は一層加速するとみられる。一方、有事での前線強化の色合いが濃く、県民が軍事的なリスクにさらされる可能性がさらに高まるのは必至だ。

▼沖縄の陸自15旅団増強を検討 南西防衛の強化で事実上の師団化

 複数の関係者によると、計画では第15旅団に現在一つある普通科連隊を二つに増やし、指揮官の階級は「陸将補」から「陸将」に引き上げる。部隊の人員規模は大幅に拡大され、指揮官は「師団」を率いるのと同等の権限を有することになる。

 防衛省関係者は、計画の意義について「実質的に強くなったかどうかが重要だ。師団という名称を使わないとしても、実質的に人員が増えれば他国にもインパクトがあるだろう」と述べた。

 第15旅団は2010年に「第1混成団」から格上げ改編された。計画は1995年ごろから進んだとされ、増強までに15年以上を要した。

 旅団化からの12年間に、先島諸島への陸自部隊の配備も進んだ。防衛省関係者は、「増強すると言いながら、部隊の規模はこのままでいいのかという議論を続けてきた」と明かす。

 具体的な想定

 防衛省は、沖縄を含む南西諸島が台湾有事で中心的な地域になると具体的に想定しており、自衛隊の医療拠点として那覇病院も建て替えて有事に増床できるようにする計画も進めている。

 背景には、台湾有事を見据えた「南西シフト」で、自衛隊と軸を一にする米軍の存在も見え隠れする。自衛隊関係者によると、部隊トップの陸将への格上げで、米軍第3海兵遠征軍の司令官と同格になるという。

 11月28日から始まった日米共同指揮所演習(YS83)では、陸上自衛隊の「領域横断作戦」と米陸軍の「マルチ・ドメイン・オペレーション」、米海兵隊の「遠征前方基地作戦(EABO)」を連携させていくことが主眼に置かれた。吉田圭秀陸上幕僚長も1日の会見で、陸自、米陸軍、米海兵隊の3つの作戦について「有事でも連携させることが必要になる」との認識を示した。

  民間地訓練も

 先の自衛隊関係者は「沖縄県内には大規模な演習場がなく、このままでは九州と行き来する必要が生じる」と強調。防衛省内には「訓練を演習場だけでやって有事に役に立つのか」との声もあり、部隊増強を契機に在沖米軍施設の使用拡大や、民間地での訓練が模索される可能性もある。

 県内では、部隊強化が、台湾問題を巡り日米の防衛強化の動きを警戒する中国を刺激することになりかねないとの指摘もある。ある県選出野党議員は、「緊張が高まれば、偶発的に武力衝突が発生する恐れもある。その場合、危険にさらされるのは、沖縄を含む南西諸島の住民だ」と表情を曇らせた。(明真南斗、知念征尚、安里洋輔)