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防衛費「歴史的」増額と沖縄 省庁をまたぐ防衛力強化…インフラ費の確保、自衛隊使用が条件か<復帰51年からの針路・変質する沖縄予算>㊦


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
安全保障関連3文書の内容を話し合う与党ワーキングチーム=10日、国会内

「歴史的転換点だ」。2023年度当初予算案で前年度比1・2倍の6兆8219億円という大幅な増額を獲得した防衛省内は高揚感に包まれた。

政府の一般歳出で防衛関係費は社会保障費に次ぐ2番手の規模に増大した。防衛関係費はこれまで、社会保障や公共事業、文教科学費を下回る4番手の状態が続いてきた。国家財政が厳しさを増す中で予算配分を大幅に組み替えた形だ。

予算案の取りまとめに携わった防衛省関係者は「国内から見ても、海外から見ても、見える景色が変わった」と語った。

背景には、岸田文雄首相が5月にバイデン米大統領との会談で「防衛費の相当な増額」を約束したことがある。以来、政府内で防衛費増額が「国際約束」(政府関係者)と位置付けられてきた。

国民的議論を経ぬまま米国に「約束」したことは、日本政府の対米追随姿勢を際立たせた。半年後には、国家安全保障戦略など安全保障関連3文書を改定し、防衛体制の抜本的強化と防衛費の増額を書き込んだ。

23年度予算案は米軍と一体化して南西地域に重点を置く自衛隊の南西シフトをこれまで以上に鮮明にした。陸上自衛隊部隊の「倍増」(岸田首相)、沖縄市への補給拠点新設、与那国町への地対空誘導弾(ミサイル)部隊の配備など、沖縄が有事に巻き込まれることを想定した計画となっている。

ミサイルや弾薬など装備の開発・購入でつり上がる防衛費全体から見ると、23年度予算案に盛り込まれた県内での施設整備などの経費の割合は低い。だが、そこから生じる沖縄の負担増大や県民生活への影響は計り知れない。

玉城デニー知事は20日、報道各社合同のインタビューで「米軍基地の整理縮小が進まない中、自衛隊の増強が重なっていくことに多くの県民も不安を抱かざるを得ない」とけん制した。

今後、南西地域の防衛力強化に向けた予算は省庁をまたいでいく。23年度から、国土交通省が担う空港や港湾の整備に防衛省のニーズを反映させる新しい制度を設ける。「特定重要拠点」に指定し、優先的に予算を措置する。

従来は純粋に国交省視点だった公共インフラの補修や老朽化対策にも、防衛省・自衛隊への協力度合いが「リンク」させられる可能性がある。自衛隊の使用を担保できるよう、各施設の利用規定の改定などが自治体などに求められ、それが事実上、予算確保の条件となるとみられる。

防衛省関係者は「自衛隊が使える保障がないのに、予算だけは付けましょうという話にはならない」と話した。

自衛隊による公共インフラの利用拡大については先島諸島が念頭にあり、最西端の与那国町や宮古島市の下地島空港などは検討の候補地となる。来年1月には自民党国防議員連盟が下地島空港の視察を予定。自衛隊の利用拡大に向け、地ならしが始まっている。

政府はこうしたインフラ整備を地域の産業や有事の国民保護にも役立つと強調する。県幹部の一人は「国民保護だと言われると、むげにつっぱねるわけにもいかない」と頭を抱える。

防衛省関係者は「もし地元自治体が整備を望むなら、それを無視して県が駄目だと言うのはおかしい。『じゃあ有事に住民は避難できなくていいのか』という話になる」と強調した。

実際は国民保護に関する課題は山積しており、政府自身も明確な展望を描けていない。そもそも国民保護の主体は自治体になっており、民間インフラの使用の可否にかかわらず、自衛隊が有事で相手の攻撃も想定される中で大勢の住民を避難させることができるのかなど、実効性には疑問符が付く。有事となった場合に自衛隊が使える港湾や空港が攻撃を受ける危険性もある。県内で反対の声が高まることも予想され、県関係者は「難しいかじ取りになりそうだ」と語った。

(明真南斗、知念征尚)

<復帰51年からの針路・変質する沖縄予算>

2023年度の予算案が閣議決定した。沖縄関係予算は3千億円を2年連続で割り込み、2679億円となった。一方、米軍、自衛隊の「南西シフト」が進む中で膨張する防衛予算では、新たな安全保障関連3文書で掲げた南西地域の防衛強化の方針を反映し、陸上自衛隊部隊の増強や沖縄での補給拠点整備に向けた費用などが盛り込まれた。沖縄の日本復帰から51年目の予算編成、その舞台裏を紐解く。

㊤ 沖縄関係予算「予想外」の微減 岸田政権で「役所の論理」復活か

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