<書評>『戦後沖縄生活史事典 1945―1972』 特異な時代の特徴鮮明に


社会
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『戦後沖縄生活史事典 1945―1972』川平成雄、松田賀孝、新木順子編 吉川弘文館・8800円

 この事典を読んで教えられたことは、実に多い。通常の事典からすれば、111項目は決して多いとは言えないが、そのことは、それだけ内容が学術的に多角的で具体的な説明であり、特異な時代の骨格を鮮明に浮き上がらせている証明でもある。

 内容に触れる前に、まず言っておきたいのは、編者の松田賀孝氏は私の大学時代の恩師で、川平成雄氏は同級生、そして新木順子氏はその頃松田研究室におられた先輩だということ。一緒によく勉強したとはとうてい言えない私だが、そのお三方が米軍統治下の27年に何をいかに見て、その後の「ヤマト世(ゆー)」をどう位置づけていたのか、この本で初めて知ることになった。

 経済史と思想史を専門とする編者であれば、経済活動と庶民の生活からのアプローチになるのもうなずけよう。沖縄の人びとに限りない愛情をよせた三者の眼は、戦後沖縄を苦しめてきた基地問題の根本は、「殺戮(さつりく)を是とするか非とするか」であって、「経済の問題にすり替えるのは、牽強付会(けんきょうふかい)」だと言い切る。これは、基地所得は生産的労働の結果でなく、外部からの移転にすぎないと説明する項目、「軍用地料と住民生活」の一節だが、これなど沖縄の人間であれば、誰もが頭に入れておいてほしい記述である。

 次に沖縄「返還」。これはアジアの安全保障において、政治と軍事の両面で日米両政府が利害一致したこと、およびドル体制維持がまずあって、その状況下でなされた沖縄住民の「民族的感情」の運動と結合した時、「沖縄返還は、ついに実現した」とみなされる。沖縄住民の意思を無視したがゆえに「第三の琉球処分」であるとの批判であり、「復帰」それ自体の批判ではない。この復帰論は「最後の通貨交換/ドルから円へ」の項目にも表れていて、私は沖縄と日本(ヤマト)のただならぬ歴史的関係からすれば、「最後の」との形容は大いに疑問だと思うが、どうだろうか。

 苦言ばかり述べたが、これも今は亡き川平、松田両氏と、新木さんのお仕事あってのことである。編者は、遠慮なく自由に議論されることを、何よりも喜ぶだろうと信ずる。

(伊佐眞一・沖縄近現代史家)


 かびら・なりお 1949年与那国島生まれ。2022年没。主な著書に「沖縄・1930年代前後の研究」など。

 まつだ・よしたか 1934年那覇市生まれ。2017年没。主な著書に「戦後沖縄社会経済史研究」など。

 あらき・じゅんこ 1946年兵庫県生まれ。主な著作に「沖縄の母親たち」など。