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「石垣を捨て駒にしてしまうことだ」長射程ミサイル配備、容認派にも広がる懸念 ゆらぐ石垣(上)<自衛隊南西シフトを問う>12


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
長射程ミサイル配備を「到底容認することはできない」とする野党側意見書を可決する石垣市議会=2022年12月19日、同議会議場

反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を明記した安全保障関連3文書改定が閣議決定されてから3日後の昨年12月19日。石垣市議会で二つの意見書が可決された。名称は両方とも「陸上自衛隊石垣駐屯地(仮称)への長射程ミサイル配備に関する意見書」。与野党がそれぞれ提案した両意見書は「十分な説明を強く求める」(与党側)「容認できない」(野党側)と書きぶりは異なる。ただ石垣島が反撃能力の“発射地”となる可能性について、市民に懸念が広がっているとの認識は共通する。「有事」に巻き込まれかねないという、国境の島の不安と動揺を二つの意見書は映し出す。

3月にも石垣島に開設する陸自駐屯地には12式地対艦誘導弾(ミサイル)が配備される。一方で政府は同ミサイルの長射程化を目指す方針を示す。射程距離は百数十キロとされる現行型から千キロ程度に伸びるとされ、長射程化した能力向上型が石垣に配備された場合、緊張関係にある中国本土にも届くことになる。

「あくまでも専守防衛のための自衛隊配備との説明がなされてきた経緯がある」(与党側意見書)中で、突如出てきた反撃能力保有と、その能力を発揮できるミサイルが配備される可能性。「抑止力」のためと理解を示す声はある一方で、陸自配備を容認する保守系にも動揺は広がり、強く反発する声もある。

八重山防衛協会事務局長も務めた野党の砥板(といた)芳行市議は「『台湾有事』発生を前提にした議論が進む中での長射程ミサイルの配備は、石垣を捨て駒にしてしまうということだ。要塞(ようさい)化どころか最前線化しかねない」と強調。保守層からも不安の声が寄せられ、島外への移住を検討する市民もいると明かす。

かつては中山義隆市政の与党議員として陸自配備を推進してきた砥板氏。「防衛の空白地帯」解消のため配備は必要だとの認識は変わらず、政府の防衛力強化の方針にも一定の理解を示す。ただ、石垣島に急速に近づく軍事化の波には強い不信感を抱く。

「抑止力としての駐屯地のはずが、『このような役割を担うはずではなかった』と疑問符が付いてしまいかねない」

こうした懸念の広がりに防衛省関係者は「3文書で書いた強化をすぐにやろうとは言っていない。何年も後の話だ。駐屯地開設とは本来、関係ない話だ」とし、地元説明を尽くす意向を示す。

一方で野党側意見書を提案した花谷史郎市議は「周辺地域の疑問にもまともに回答しないまま陸自配備も進んできた。信用できるかどうか以前の問題だ」と防衛省や政府への疑念をあらわにする。その上で、防衛力強化の動きには「平和国家としての姿勢や憲法、民主主義にも関わる。南西諸島の局所的な話ではない。全国的な議論が必要だ」と訴えた。

(大嶺雅俊、明真南斗)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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