宮沢和史さんが読み継ぐ沖縄の手引き書 「観光コースでない沖縄」最新版 「真実」知るきっかけに


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第5版が出版された「観光コースでない沖縄」を手にインタビューに応じた宮沢和史さん=3月24日、東京都

 【東京】「沖縄のことを知るための入り口、手引書だった」。ヒット曲「島唄」の生みの親で、音楽活動や文化伝承活動で沖縄と関わり続ける、シンガー・ソングライターの宮沢和史さん(57)がそう語る「観光コースでない沖縄」(高文研)の第5版が、このほど出版された。1983年の初版から40年、新執筆者を加えた改訂版だ。「沖縄の変遷と共に版を重ねている」と、初版から読み継ぐ宮沢さんは語る。

 「この本を片手に沖縄各地の戦跡を回った。沖縄を知るガイドブックになった」

 初版を手にした当時の思い出を宮沢さんはこう振り返った。90年から「沖縄通い」を始め、直後に「物書きの仲間」が見つけてきたのが同書だった。沖縄戦のこと、72年の日本復帰後も大部分が残った米軍基地のこと。「観光コース」には載らない沖縄の「真実」を知った。

 「チビチリガマ(読谷村)での悲劇には衝撃を受けた」。1945年4月、壕で起きた住民の「集団自決」(強制集団死)を初版を通じて知り、現地に足を運んだ。

 87年11月、ガマの入り口に設置された像が政治団体に破壊され、「記憶の継承」のためなどとしてそのままの状態で残された経緯も知り、さらに打ちのめされた。

 「歴史が終わらない。継続してしまう怖さとリアリティー。沖縄戦が終わっていないということを、まざまざと感じた」

 昨年、沖縄と東京で同時開催された沖縄の日本復帰50年記念式典では、沖縄会場でのレセプションに登壇した。

 「会場の外側から式典に反対するシュプレヒコールが聞こえてきた。県民みんなが心から祝えていない状況で歌うことに悩みはあった」と振り返ったが「沖縄出身の人が歌ったり、ヤマトから誰かが来て歌ったりするよりは、両方を知っている自分がやるべきだったのかもしれない」とも。深く関われば関わるほど、心を揺さぶられるのが沖縄だ。

 「第5版」では、国内屈指の観光都市となった一方で、「基地依存型経済」など沖縄が抱える構造的問題に踏み込んだ。米中対立を背景とした南西諸島防衛強化で増大する基地負担、世界自然遺産に登録された沖縄の自然が直面する「基地の島」としての現実にも触れる。「言い換えれば沖縄が、常に何か大きな力に翻弄(ほんろう)され続けている落ち着かない状況に置かれているということ」と宮沢さん。「この本が版を重ねなくていい時代が来てほしい」と苦笑交じりにつぶやいた。

 (安里洋輔)