Cocco「生存者」にささげる 新アルバム「アダンバレエ」発表


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新作を「サバイバーによるサバイバーのためのアルバム」と語るCocco=那覇市の琉球新報社

 沖縄県出身アーティストCoccoが24日、1年10カ月ぶりの新アルバム「アダンバレエ」をビクターエンタテインメントから発表する。7月には沖縄の先輩アーティスト、ディアマンテスのライブに出演し、9月からは5年ぶりの全国ツアーを行うなど精力的に活動している。新譜や久々のツアーなどに対する思いを聞いた。

 ―7月にディアマンテスの25周年ライブにゲスト出演していた。歌った曲は自分で決めたのか。

 「『アスタ・マーニャ』はディアマンテスに歌ってねって言われた。『音速パンチ』は本土で『沖縄の歌っぽい』って言われて、東京でディアマンテスの『SU―RI―SA―SA』を聞いた時に(沖縄っぽいところが)『似てるな』って感じて、今回やりたいと思った。(一緒に歌っていて)もう踊る方が楽しくなってしまった(笑)」

 「(出番が)終わって客席から見ていたら号泣した。あまりに沖縄に愛されてるから。私がどんなに恋い焦がれてもあれほど沖縄に愛されないのに、それをやってのけた。そこにルーツがあっても、生まれた場所じゃない所で築くって大変なこと。でも認められて、求められている。ディアマンテスの歌は私にも染みついている。こんなの見せられたら、私は生粋のうちなーんちゅなのに、もっと頑張らないといけないってずっと泣いてた。呼んでもらえて本当に良かった。沖縄はすごい先輩がいっぱいいる。(アルベルト城間が)『Coccoも来年デビュー20周年だから、いつでも駆け付けるよ』って(笑)。20周年は頑張ります」

Cocco「アダンバレエ」ジャ「アダンバレエ」(初回限定盤)

 ―新アルバム「アダンバレエ」は「生存者(サバイバー)による生存者のためのアルバム」だそうだが。

 「気が付いたら自分が39歳だということに衝撃を受けた。歌も20年近くやると思ってなかったし、生き急いでる方だと思ってたけど、図らずも生き残った者になっていたんだって。だったら生き残った者として、サバイバーってこんなだよって形にしないといけないと思った。(歌をささげる)対象は自分がサバイバーになったと気付いた人かもしれない。若い人は39まできた時に聴けばいいと思う」

 ―なぜ「アダンバレエ」なのか。

 「以前、ひめゆり学徒隊の生存者からアダンの草陰で身を寄せ合って攻撃から逃れていたと聞いた。アダンはサバイバルの象徴だと感じていて、自分がサバイバーなんだと思った時にその風景が浮かんだ。そこに一番ポジティブな生きているイメージのバレエを足した」

 ―作る歌も以前と今では変わったのか。

 「前作の『プランC』を作ったのは2年前だけど、それが人生の最先端だった。いろんなことを知りすぎたし、いろんな経験をしすぎたし、これ以上うれしいことも痛い思いも経験しないだろうと思っていた。でも2年たったら『プランC』が古いわけ。最初に『ブーゲンビリア』(1997年)をつくって、でももっと分かることがあったから『クムイウタ』(98年)を作って、最先端でやってると、次ができちゃうんだと思う」

 「今回は新しい年下のミュージシャンと作りたかった。生き残ったから、今まで自分が甘えていたミュージシャンの立場になって、若い子を教えないといけないと思った」

 ―曲は全て具体的な経験から生まれているのか。

 「人生経験。基本、1人で生きていく人の歌です。『卯(う)の花腐(くた)し』は向こう側に行った人は連れ戻せない、お見送りをしようという歌。若い時は何も失わない、手に入れるだけだと思っているけど、大人は失うこと、この時間がなくなることを覚悟していると思う」

 「『楽園』は沖縄のことを思っている歌。沖縄は果たされない約束を夢見ている。デビューしたころ、約束を果たせる人になりたい、沖縄の代わりに声を上げられる人になりたいと思った。でも20年近くたった今、自分に課した約束も果たせられていなくて、20年前に生まれた子どもたちがまた終わりのない闘いをしている。何もできなかった申し訳なさがある」

 ―この間も米軍属女性暴行殺人事件が起きて、県民大会があった。

 「そのころちょうど『楽園』をレコーディングしている時だった。これが沖縄の歌なんだって、歌にぶつけられた」

 ―5年ぶりに全国ツアーをする。ライブで自分をコントロールできなくてつらいというのは克服できたのか。

 「何も解決してない。でも芝居とか映画とか楽しいことをしたから、やらなきゃいけないって思ってる。痛くないと人生じゃないみたいな気質があって。どM(笑)。でも占いで63歳くらいから楽になるって言われたから、そしたら車のない(安全な)道を渡れるかもしれない」

 ―沖縄でのライブはないのか。

 「沖縄では簡単にライブできないのよ…。(小声で)機材も運ぶからマイナスになる。よほどほかで黒字が出ないと来られない。いつも沖縄をツアーに入れられるよう頑張ります!」
(聞き手 伊佐尚記)

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