2015年の年間現金給与総額(事業所規模5人以上)は全国平均が31万3801円であるのに対し、沖縄は24万1212円で全国最低なのは事実です(事業所規模30人以上でも同様に全国最低となります)。
しかし前回見た通り、沖縄の労働分配率は法人企業ではほぼ平均、個人企業も含めると、どのような算出方法によっても全国平均を上回っていることから、労働分配率の低さが低賃金の大きな要因ではなさそうです。
では、なぜ沖縄は賃金が全国一低いのでしょうか? もちろんさまざまな要因があり、単純化して言えるものではありません。沖縄は、前回示した個人企業も含めた労働分配率のうち、生産活動に携わった人の居住地に着目した(県民概念)県民所得を分母の要素とした算出式(1)(注1)より、県内地域で生産されたものに着目した(県内概念)県内総生産を分母の要素とした算出式(3)(注2)の方が労働分配率が低くなり、その下落率がマイナス17・44%と全国平均16・05%より高くなっています。これは、県内で生産された富が県外へ流出していることを意味します。沖縄は、最低賃金が全国一低く設定されていることと相まって、いわゆる本土資本の市場支配力が強いため、県内の賃金に反映されていないのではないかという指摘ができそうです。
山形大の戸室健作准教授が「県外から低賃金労働力を求めて企業が進出することで、低賃金や非正規雇用が維持固定化されている側面があるのではないか」と指摘しており、これは十分に検討事項であるといえるのではないでしょうか。
労働分配率と賃金については以下のようにまとめられます。
(1)沖縄はオーナー企業が多いと言われるが全国で下から2番目に少ない。
(2)法人企業の労働分配率は平均を下回るがほぼ同じ。
(3)沖縄は個人企業が全国一多いが、個人企業も含めた労働分配率はいずれの算出式でも全国平均を上回り、全国13位や15位と上昇する。
(4)沖縄は全国に比較して、同族経営により一般従業員には十分なお金を回さず、自身や親族などにしかお金を回さないということは確認できない。
(5)県外から低賃金労働力を求めて企業が進出することで、低賃金や非正規雇用が維持固定化されている側面がないかは十分に検討分析すべき事項である。
(安里長従、司法書士)
(注1)県民所得(要素費用表示)÷県内就業者数を分母とし、県内雇用者報酬÷県内雇用者数を分子とする労働分配率の算出式。
(注2)県内総生産÷就業者数を分母とし、県内雇用者報酬÷雇用者数を分子とする労働分配率の算出式。