子どもの貧困解決のために沖縄県や市町村、議員、県民がやるべきこと【貧困雇用 沖縄経済を読み解く(16)】


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 沖縄の子どもの貧困(子どもの相対的貧困率・沖縄29・9%、全国16・3%)の解決が叫ばれ、県政の重要課題としての取り組みが始まっています。県が設置した「沖縄子どもの未来会議」では、2030年までに子どもの相対的貧困率を10%に改善する目標を掲げていますが、そのためには基本的に、子育て世代の「所得の底上げ」が必要不可欠なのです。しかしその認識がきちんと共有されているでしょうか。

 近年、市民としての「自由」の範囲が選択可能なものとして実質的に保障されているか否かに着目する概念である「社会的排除」が注目されています。社会資源として「学習支援」「子ども食堂」「子育て支援」「支援員の配置」など、排除されない社会をつくっていくための取り組みと、雇用政策・産業振興・経済政策における「相対的貧困」の解消、つまり低所得者層の底上げ・格差の是正のための取り組みをきちんと分けて整理し、両輪として取り組まなければなりません。

 なお、県の子どもの貧困対策は「子ども政策福祉部」の中の「子ども未来政策課」です。「沖縄子どもの未来県民会議」の事務局を担っています。相対的貧困率の改善のためには、知事公室基地対策課のように商工労働を含め他の部への横断的な権限のある基幹部署として位置付け、政策実行への本気度を示すべきです。

 貧困と格差の拡大は、精神的不安・ストレス・生活意欲・自尊感情の低下・人間関係の希薄化・現実認識の不確実化を招き、家庭内不和、DVや児童虐待などの暴力、不登校、中退、非行、孤立、病気、ニート、多重債務、依存症や犯罪、自死などさまざまな問題を誘発します。そして貧困は世代間で連鎖します。

 今月、21世紀ビジョンの基本計画の改訂がなされ、子どもの貧困対策推進が明記されましたが、県により9月ごろをめどに取りまとめられる予定の21世紀ビジョン後期実施計画においては、ライフステージに即した切れ目のない総合的な支援策のほか、低所得者層の底上げ・格差の是正のための産業振興・経済対策を相対的貧困率改善の数値目標とともにきちんと書き込むべきです。

 また21世紀ビジョンは、第5次沖縄振興計画として、沖縄の自立的発展に資するとともに、沖縄の豊かな住民生活の実現に寄与することを目的とするものです。それにもかかわらず、法律上、県民の代表である県議会が何ら関与する権限がないことは問題です。21世紀ビジョン後期実施計画策定においては、県議会においても活発な議論を深めていくべきです。

 市町村においてもやるべきことはたくさんあります。市町村ごとの貧困率算出や貧困の実態調査を行いその課題を示すこと、就学援助・学童クラブ利用料・児童館・子育て支援・母子支援策などの市町村格差を可視化させ是正すること、子どもの貧困関連予算も含めた地方自治体の予算が真に貧困解消や地域経済発展のため実効的に使用されているか、優先順位・重点化のチェックなど地方議員の役割は重要です。

 労働団体も、企業の枠を超えて非正規型労働者を組織する合同労組(ユニオン)を周知・拡充してほしいと思います。

 そして何よりも、県民自身が構造的解決を目指し、基地問題における非争点化と同様、貧困に対する根強い自己責任論や文化論から脱却する意思を示すことがとても重要だと思います。
(安里長従、司法書士)