沖縄発の人財育成モデルで社会を変える FROGS代表・山崎暁さんに聞く


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 9月29日、システム開発などを手掛けるレキサス(うるま市、比屋根隆社長)は同社の「人財育成事業部門」を分離独立し、株式会社FROGSを設立することを発表した。代表はこれまでレキサス執行役員として人事と、シリコンバレー研修などを通じてグローバルリーダー人財を育成するRyukyufrogs General Organizerを担ってきた山崎暁さん。

 「人は財産」との理念のもと、ことし9年目に入る「Ryukyufrogs」や、レゴを教材にし、レゴエデュケーション公認インストラクターが子どもの能力を伸ばす「レゴ®️スクール」などを事業として担う。次世代の育成を通して、イノベーションの現場を目にし、自身も起業という選択をした山崎さんに独立の経緯や今後の展開を聞いた。

(聞き手・東江亜季子)

 

―独立の経緯を教えてください。

 レキサスの人財事業部門で独立起業しました。9年間やってきたRyukyufrogsなどのコンテンツについて、2年前くらいから企業、他自治体の関係者から声がかかるようになりました。他の地方にRyukyufrogsがやってきたようなモデルを産みおとしていくことができると思っています。

 他にも大人版シリコンバレー研修やイノベーションを起こすための研修や地域に寺子屋のような生きる力を学べるスクール事業も視野に入れています。

 9年間やってきて感じていることは「横でなく、縦のつながりが大事」ということです。学年で分けて「みんなと同じように勉強しなさい」と言っても、窮屈な子もいる。もっと上を目指せる子もいる。興味・意識・言動思考の癖などの縦の軸に注目した教育や機会提示が必要です。

 学年や年齢で、横の線を引いて分けるのではなく、学年に関係ない「縦の学校」です。スクール事業で、これからの時代の子どもたちのための学校を運営できればと思っています。
 

―今後、Ryukyufrogsの運営は?

 RyukyufrogsはNPO化して体力をつけて、その運営をFROGSが委託されるという形にしていきたいと考えています。社としてレゴ®️スクールの事業も行っています。自治体から「レゴクラスを設けてほしい」という声もあるので、スクールだけでなく、出張形式で学べる環境を用意したいと思っています。

―育てたい人材像というのはどのような人ですか?

Futurristic:未来的で、時に奇抜であり
Radical:革命的で、刺激的であり、
Open‐minded:開かれた心で、新しい思想を取り入れられることができ、
Global-thinking:国にとらわれない、全世界的思考であり、
Social influential:社会に影響力がある人

 を育てたいと思っています。
 
 変化し続ける社会で新しい価値を生み出す人財を輩出していきたいですね。
 

テクノロジーは社会に向けて使うことが大事

―このように独立起業に至った背景に社会的な変化などはあるのでしょうか?

 自身としてはレキサス社内の人事をやってきました。Ryukyufrogsなど、取り組んでいる人財事業にニーズはあると感じていましたが、1企業の中で人事をやりながらでは限界がありました。

 社会の変化としては、少子高齢化しています。

 1人の人が複数の企業と雇用契約することが当たり前の時代がすぐそこにきています。

 学習指導要領の改訂の議論が進み、自分の考えや学んだことをアウトプットする学習が重要視されてきています。文科省が2020年の学習指導要領の改訂を発表したときには「あっ!きた」と思いました。

 「フィンテック」などを始めとする、あらゆる分野にテクノロジーをかける「◯◯×テクノロジー」が広がってきました。

 このような変化のなか、これからの時代を見据えると、日本の教育で文系/理系と分けることはナンセンスで、どちらにも素養があるハイブリッド人財を幼少期から育てる必要があります。

 プログラミング教育が熱を帯びていますが、落とし穴なのはプログラミングができても、内にこもってしまっては意味がないのです。プログラミングなど身につけたテクノロジーは外に向けて、社会で使うことが大事です。そうでないと、文系/理系で隔離がまた起こってしまう。

 クリエイティブで、エネルギーのあるマインドを持った人を育てること、それをFROGS社が持つメソッドで実現することができます。
 

 これから社会は「IoT:インターネットが物とつながる」のではなく、「IoE:インターネットが全てとつながる」時代が来ます。

 その時に、IoEを理解して扱えるリーダーが必要です。高度なテクノロジーを、正しい心と正しい価値観でリーダーシップを図りながら、人間とテクノロジーの調和を図れる人を生み出さなければなりません。

 9年前、東京から沖縄に移住するときに、レキサスの比屋根から「レキサスの人事ではなく、沖縄県の人事をやってくれ」と言われたのが印象に残っています。「人で沖縄を変えていくんだ」と。沖縄の人財を育てる覚悟をして移住する決断をしましたが、当初はRyukyufrogsの取り組みについて厳しく言われることもあり、正直、心が折れそうになったこともあります。

 しかし、Ryukyufrogs6、7、8期生頃から風向きが変わってきました。応募数も協賛数もどんどん増えるようになっていきました。
 

FROGSの役割:厳しい環境から脱出するための生きる力を提供すること

―どうして風向きが変わってきたんでしょう。何が起こっていましたか?

 Ryukyufrogsに参加した子どもたちの活躍が世間に見えるようになってきたのかもしれません。

 よく取り上げられたのは高校生起業家。

 他にも、経済的に厳しい家庭の子がアルバイトばかりの生活から脱出したモデルもあります。その学生は以前は家計を助けるために高校1年の頃から3つのアルバイトをし、将来は安定的な収入を得るために「サラリーマン」を目標にしていた学生でしたが、Ryukyufrogsで「自分が本気で動けばもっと大きい幸せがつかめるんだ」と実感したそうです。

 親に「時間をください」と話し、高校を1年間休学してフィリピンのセブ島に英語とプログラミングを学びにいきました。セブ島の学校の先生に聞くと、稀に見る驚異的な速さで、英語とプログラミングが伸びたそうです。

 現在は県内の高校に復学して、情報工学系の大学を目指して勉強しています。将来はシリコンバレーで働きたいと頑張っています。

 昨今、子どもの貧困が社会問題として顕在化しています。子ども食堂などもすばらしい取り組みですが、与えるだけでなく、厳しい環境から脱出するための生きる力を提供する。FROGSはそれを提供する大切な役割を担っていると思います。

 さらに、2015年度、経済産業省がイノベーターグローバル起業家等育成プログラム「始動 Next Innovator」を始めたことも、「これまでやってきたことは間違っていない」と確信するきっかけとなりました。
 

―理念、育てたい人材などを聞きましたが、課題もありますか。

 たくさんあります。まずはリアルな話になりますが、経営状況です。レキサスのなかでRyukyufrogsの事業をやっていたとき、年間で3千万円かかるのですが、企業協賛などは全体で1200万円。人件費や制作費、関わる講師など全て手弁当でやっていた現実が数字として表面化しました。

 シリコンバレー研修でお会いしてセッションをする皆さんにも本当に善意でやっていただいています。
 

 今まで奇跡的に継続してくることができましたが、このRyukyufrogsを継続するためには、事業として確立させなければなりません。

 例えば今後、FROGS社に発注していただく企業研修などは、数パーセントRyukyufrogsの活動に寄付するなど、子どもたちの育成のため、社会を循環する資金サイクルをつくる必要があります。

 

―課題もあるなか、今の心境は?

 私がポジティブすぎるのか、そんなに不安ではないです。先日も講演に呼ばれて他県に行きましたが、取り組んでいることを話すと、返ってくる熱感があります。誠実にやっていくことが大事だと思っています。

―最後に。

 日本が誇れる会社にしたいです。役職ではなく、役割で働く、働く時間や場所にもこだわらず、ヒエラルキー型経営と対照的な管理しない経営をしています。働く人一人ひとりが自律し、働く人自身が誇れる会社にしていきたいです。
 

Ryukyufrogs

 民間の人材育成事業「リュウキュウフロッグス」。社会課題を解決するノウハウと技術、起業家精神を身に付けた「ハイブリッド人財」の育成を目的とする。選抜学生は約半年間、課題解決に向けての考え方や英語を学び、シリコンバレー研修などを通して自身のサービス案を構築する。

 ことしのメンバー9期生は12月17日、成果発表会「リープデイ」の舞台に立つ。