ハンセン病史 継承へ活動 「耳で聞き 心に刻んで」 講談師・伊藤貴臣さん


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愛楽園の納骨堂前で講談「ハンセン病講談風語り:煌(きら)めく百の物語 違憲国賠裁判/忘れがたき故郷編」を熱演する伊藤貴臣さん=9月6日、名護市済井出の沖縄愛楽園

 ハンセン病の歴史を次世代に残そうと全国各地で奮闘している男性がいる。大阪を拠点に講談師として活動する伊藤貴臣さん(42)は言葉で差別の痛みを伝え、理解してもらおうと、「沖縄県ハンセン病証言集・沖縄愛楽園編」(愛楽園自治会発行)を朗読するラジオ番組の制作や元患者の体験を基にした講談の作成、上演に取り組んでいる。「文章を読むことが難しくても耳で理解できる。耳で聞き、心で想像することで胸に刻み込んでもらいたい」と語った。

 伊藤さんはトランスジェンダー(性同一性障害など心と身体の性に違和感のある人)だ。生まれた時の性別は女性だが、性自認は男性。ただそれだけで人は伊藤さんを拒否した。唾を吐きかけられたり、触れた物を目の前で洗われたりした。「ハンセン病元患者の皆さんの体験が私の体験と重なった。私だから伝えられることがあるのではないかと考えた」

 ことし4月、名護市済井出の沖縄愛楽園を題材にした講談上演のために初めて同園を訪れ、金城幸子さん(77)や平良仁雄さん(79)らハンセン病元患者と交流した。元患者や家族が背負わされた苦しみと悲しみの歴史、さまざまな理由から亡くなってもなお古里に帰れぬまま納骨堂で眠る450人以上の元患者の存在を知った。

 「夢は今もめぐりて、忘れがたきふるさと」

 9月6日、愛楽園納骨堂前に歌声が響いた。伊藤さんが作成した講談「ハンセン病講談風語り:煌(きら)めく百の物語 違憲国賠裁判/忘れがたき故郷編」での一幕だ。納骨堂に眠る元患者たちを思い、参加者が唱歌「故郷」を歌い上げた。

回復者の平良仁雄さん(左)と金城幸子さん(中央)に講談の完成を報告する伊藤貴臣さん=8月31日、うるま市

 客を話に参加させてはいけないという講談のご法度を破り、「故郷」合唱を取り入れた。「愛楽園があったから生きられたのではない、愛楽園でしか生きられなくされたんだ。この言葉の重みを伝えたかった」

 11月10日に愛楽園は開園80年を迎える。「生まれ育った場所、好きだった景色へ魂だけでも帰ってもらいたい。その願いを込めた」

 伊藤さんのラジオ企画「煌めく百の物語―沖縄愛楽園から未来へ送るメッセージ」は、伊藤さんの思いに共鳴した元アナウンサーや著名なナレーターなどプロの語り手が「沖縄県ハンセン病証言集・沖縄愛楽園編」を朗読する。証言集には116人の元患者の思いが詰まっている。

 すでに10月からインターネットラジオ「RADIO BALLOON (レディオ・バルーン)」で放送している。ラジオ局など県内での放送先も探している。伊藤さんは「過ちを繰り返さないよう、音が出る教科書として証言に命を吹き込んだ。全ての証言を放送するまで続ける」と力を込めた。

 「煌めく百の物語―沖縄愛楽園から未来へ送るメッセージ」の放送は、レディオ・バルーンで毎週月曜午後4時~同4時半。問い合わせは(電話)06(6365)6182。 (佐野真慈)

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愛楽園開園80年 新報HPに特集

 琉球新報では沖縄愛楽園の開園80年を前に、沖縄のハンセン病回復者の証言などを通し回復者や家族の苦しみを探る記事を掲載する。ホームページの特集コーナーに設けたページ「みるく世向かてぃ~沖縄のハンセン病~」で、最近報じたハンセン病に関する記事をまとめている。「煌めく百の物語―沖縄愛楽園から未来へ送るメッセージ」も第1回から随時、琉球新報ホームページで公開する。