沖縄の大手旅行社がコンビニ事業に参入する理由 キーワードは外国人旅行者の需要、〝旅ナカ〟ストーリー


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 県内の旅行大手の沖縄ツーリスト(OTS、那覇市、東良和会長)がセブン―イレブン沖縄(久鍋研二社長)とフランチャイズ契約を結び、コンビニエンスストア事業に参入すると発表した。沖縄のリーディング産業、観光業の中核的存在のOTSが本社ビル1階を改装して異業種に参入する背景には“地の利”を生かす狙いがある。同時に、旅行の売り方が変化する中で、会社の柱は変えずに、トレンドを捉えて商機に生かそうとする変革の一端に位置付けられそうだ。

コンビニエンスストア経営に参入する沖縄ツーリストの本社=那覇市松尾

 「本社ビルを有効活用できる」。セブンが県内進出を表明すると、石坂彰啓取締役観光部長はすぐにセブン側に接触した。店舗の利用構想の検討に入った。

 沖縄を訪れる観光客は誰もが訪れる―。OTSは旅行者の“旅ナカ”のストーリーを思い描きコンビニ経営に乗り出す方針だ。

 観光客の多くは沖縄美ら海水族館や首里城などの世界遺産を訪れるが、ほとんどの観光客が旅程に国際通りを組み込んでいる。セブンの店舗にするOTS本社は国際通り沿いという観光客が集まる好立地に位置する。スーツケースを引っ張る外国人観光客や修学旅行生、個人旅行でも土産品や散策で訪れる観光客が多く、日々にぎわう場所だ。

 OTSはこれまでもこの旅ナカの動きを意識し、那覇市国際通り商店街振興組合連合会などと協力してICチップを内蔵したリストバンド「スマイルタグ」で周遊しながら買い物してもらう国際通り活性化事業を展開、荷物の一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」と業務提携を結んできた。コンビニ経営はこれら旅行者目線の事業展開の一つだという。

 OTSがコンビニで特に力を入れようとしているのが訪日外国人旅行客「インバウンド」の需要だ。特に那覇港のクルーズバースに寄港するクルーズ船に商機を見いだしている。国際通りはクルーズ船のオプショナルツアーに組み込まれているだけでなく、バースのある若狭から近いということから個人で行動するクルーズ客も気軽に訪れることができる。

 クルーズ客だけでなく、近年旅行形態は多様化している。特に旅行前の予約段階はOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の存在感が大きくなり、個人旅行の割合を高めている。その分、旅先での「着地型」の観光には商機があり、OTSのコンビニ参入も旅行者の旅程での動きに着目した結果だ。

 OTSはコンビニ経営でも地元の旅行業者という強みを生かす。インバウンドの約7割がコンビニで買い物をしていることから、セブン店舗では免税コーナーを充実させ、客単価を増やす計画だ。インバウンドには多言語対応が欠かせないが、社員の1割は外国人で豊富な人材も生かすこともできる。石坂取締役は「着地型でどのようなストーリーが描けるかが今後重要になるだろう」と優位性をどう築くかが鍵になるとの見方を示した。旅行とコンビニ経営がどう融合していくか今後の展開が注目される。

 (仲村良太)