社会

〝生のアメリカ〟伝える 琉球新報、ウォール・ストリート・ジャーナルと提携

 「琉球新報WebNews」(ホームページ)で22日から、米国最大の日刊経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」のオンラインサイトが購読できるようになった。サービス開始を受け、沖縄県の読者向けの活用方法を紹介するとともに、WSJ日本版の西山誠慈編集長にオンラインサイトの特徴や今回の本紙との提携の狙いなどについて聞いた。


◆ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 西山誠慈編集長に聞く
 異なる視点 知る機会に
 


西山誠慈編集長

 ―ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本版の編集方針は。

 「心掛けていることは“生のアメリカ”を日本の読者に届けることだ。それを意識して日々、英文記事の中から記事を選択して翻訳している。分かりやすく例えて言うと日本人向けに味付けされたハンバーガーではなく、米国の家庭でよく焼いて食べられている米国のハンバーガーをお出しする感覚に近い。日本のメディアのレベルはすごく高いので、一般の人にとって海外の情報であってもある程度は日本のメディアで足りてしまう。だが、WSJの日本版としてはそれ以上か、それとは違うものを提供しなければいけない。日本の読者が何に関心を持っているのかを考えるのではなく、米国で今何が話題になっているのかをあえて届ける。米国の考え方や視点を提供するのがわれわれの使命、役割だと認識している」

 ―WSJの特徴は。

 「四つの柱がある。(1)米国・海外ニュース(2)ビジネスや金融など経済ニュース(3)社説・寄稿などオピニオン記事(4)IT関連ニュース―となっている。特にITは以前は経済ニュースの一部だったが、IT企業は時価総額でも米国でトップ5に入るなど、その存在は大きく変化も激しい。シリコンバレーを担当するサンフランシスコ支局は人員や人材など力を入れている」

 「よく読んでいただいている記事に社説や寄稿などオピニオン記事がある。WSJは米国の中でも保守的なメディアとして知られており、日本人からすると相いれない極端な論説があることもある。例を挙げると、第2次世界大戦の終結を早めたという意味合いで、広島の原爆投下を正当化するような論説が掲載されたことがあった。日本読者から大きな反発があった。われわれの報道は公正中立なものを目指しているが、社説は一方の姿勢に寄ったはっきりとした意見が示されることがある。沖縄の基地問題などについても今後、沖縄の方々とは考えが異なる記事が掲載されることもあるかもしれない。だが、オピニオンがWSJの一つの柱でもあるのでぜひ読んでほしい」


19日付WSJ日本版のフロントページ。トランプ米政権を巡るロシア疑惑に関する捜査報告書について報じているニュース画面

 ―極端な論説だからこそ読んでほしいというのはどういうことか。

 「視野を広げるという意味もある。何事もそうだが相手の立場を知ったり、考えたりすることで対話にも結び付くこともあるかもしれない。デジタルやソーシャルメディアの負の部分としてよく指摘されるのが、似たような意見に囲まれてしまうということがある。フェイスブックなどのようにネットを介して得られる情報は個々人の好みに過度に偏る『フィルターバブル』と呼ばれる情報環境や同じような考えを持つ人同士がつながり、異なる意見が入ってこない『エコーチェンバー(共鳴箱)』という状況が発生しやすい。意見が先鋭化されたり、分断化されたりする状況の中であえて違う立場のものを読むということは、今すごく難しくなっているが、そのような意味でも違った視点から意見を読むことができるいい機会なのではないかと思う」

 ―沖縄に読者の関心を引きそうな記事は。

 「沖縄はIT関連の企業が数多く進出していると聞く。IT関連の記事はWSJの売りの一つでもあるのでぜひ読んでほしい。また、米国の大統領選挙戦はもう始まっていると言っても過言ではない。トランプ大統領が再選するかどうか、ということを含め深掘りする取材を徹底していくので期待してほしい。貿易に関する中国の脅威は米国の一番の関心事だ。中国の動きについて書いた記事も多いので、地理的にも近い沖縄の方々にも興味を持って読んでいただけると感じている。記事を中国語でも読むこともできるので、沖縄に観光で来ている中国の方にも関心を持って読んでもらえるのではないかと考える」

 ―琉球新報との連携をどう考えるか。

 「沖縄は歴史もあり、米国とは特殊な関係にあると感じている。米国との関係が日常生活にも密接につながっている地域だと理解している。そのような関係もあり、米国の生の声をフィルターを通さず読んでいただけることは、意義が大きいのではないかと思う。さまざまな観点で意見が異なることもあるのかもしれないが、相互の理解や対話につながればいいのではないか。WSJを沖縄の方に読んでもらえるのはやりがいに感じているし、非常にうれしい」

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 にしやま・じょうじ 2014年、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本版編集長に就任。20年以上、WSJやロイター通信の英文記者・編集者として勤務する。11年からWSJ東京支局で経済政策報道の編集責任者を務め、アベノミクス当初から日本銀行による金融緩和政策などを報道してきた。ロイター通信社では、経済、政治、外交など幅広い分野を担当し、海外での取材も多く経験。米ニューヨーク生まれ、東京育ち。早稲田大学政治経済学部卒。


経済、テクノロジー 幅広く 元高官、識者寄稿も人気

 


名護市辺野古への新基地建設に反対する玉城デニー氏の知事当選を報じる記事

 月間平均約6809万人のユーザーを持つ「ウォール・ストリート・ジャーナルオンライン」。その日本版には、米国版に掲載される記事の中から日本の読者と関係が深いものや、金融やビジネスなど経済関連をはじめ、米国政治、テクノロジーなど幅広い分野の記事が掲載されている。

 グローバルリーダーによる寄稿や社説も翻訳され掲載されており、読者に人気だ。4日付のオンラインに掲載された社説「不安出ずる国、日本の消費増税」では「安倍晋三首相は年内に消費税率を引き上げ、景気を悪化させると固く心に決めているように見える」と指摘し、日本のメディアでも報道された。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者の逮捕なども米側の視点で論じている。


4日付のWSJ日本版に掲載された日本の消費増税に関する社説

 米大統領選や米朝会談などの裏舞台を描いた記事や分析記事、調査報道などもWSJの強みだ。丁寧な調査報道やスクープなどで米国で最も権威ある賞「ピュリツァー賞」を38回受賞している。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設問題など沖縄の基地問題や日米関係を取材する琉球新報ワシントン特派員たちもWSJの記事に注目し、報道してきた。2018年の玉城デニー知事の誕生について、WSJは新基地建設を巡り長期的な法廷闘争の可能性を指摘する記事を掲載。


在沖米軍の台湾移転を提案するボルトン大統領補佐官の寄稿

 2017年のトランプ政権発足直前に掲載された寄稿では、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が「日米関係を悩ます沖縄から、少なくとも一部米軍を(台湾に)再配置すれば、ワシントンは東京との緊張を緩和するのに役立つかもしれない」とし、在沖米軍を東アジアの国に近い台湾に移転することを提案した。日米関係や安全保障に詳しい米研究者が沖縄の米軍基地問題に対する解決策を示した共同寄稿も掲載された。WSJには米政権に影響力がある元高官や有識者らがさまざまな寄稿を寄せている。


米国最大の日刊経済紙
 

 

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ) 1889年に創刊。メディア企業ニューズ・コーポレーションの子会社ダウ・ジョーンズ(DJ、本社・米ニューヨーク)が発行する。全米で約109万部を発行する米国最大の日刊経済紙。世界58カ国に71支局を配置し、1400人ものジャーナリストをかかえる。優れた報道をたたえる米国で最も権威ある賞「ピュリツァー賞」を、38回受賞。15日に発表された2019年の同賞では、トランプ米大統領がポルノ女優に口止め料を支払った過程を暴いたWSJの報道が米国内報道部門に輝いた。

 電子版のWSJオンライン(WSJ.com)は、世界各地に情報網を持つダウ・ジョーンズの記者から寄せられるビジネスや経済情報をリアルタイムで提供している。WSJ紙面に掲載される記事についてもオンライン用に編集して24時間体制でアップデートしている。米国版をはじめ日本版、中国版、欧州版などがある。日本版では、日本語で日本の読者に関係があるニュースや解説記事、寄稿記事などをグローバルな視点で発信している。

 月間の平均ユーザー数は2017年12月時点で約6809万人、ページビュー数は2億9363万PV。