窓の外にサトウキビ畑が広がる、久米島町の町長室。執務机の後ろに置かれたラジオから、軽妙なトークが聞こえる。「『FMくめじま』ですね。いつも流しているんです」。大田治雄町長が笑った。
FMくめじまは2012年4月に開局したコミュニティーFM。パーソナリティーで企画担当の宇江城久人さん(52)が「島で起きている、ありとあらゆる情報を届ける」と言うように、役場の広報から音楽、生活情報まで多彩な放送を展開している。
スタッフはパートを含めて4人。久米島高校野球部の甲子園予選は球場から実況中継し、台風接近時には夜通し災害情報を伝える。町内にテレビ局や新聞社がない久米島にとって、今やライフラインとも言える存在だ。
商工会青年部や高校生、製糖会社の社員、町議会議員など、60~70人の町民がパーソナリティーを務める。合言葉は「みんなの声で創ろう」。放送局がある具志川農村環境改善センターには、町民がふらっと遊びに来る。宇江城さんは「ラジオで町民のつながりができる。みんなでまとまって、子どもたちに自慢できる島を残したい」と話す。
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6月18日午後7時、久米島高校放送部の男女6人がFMくめじまのスタジオに入った。ヘッドホンを着け、マイクの前に座る。毎週火曜日、30分の生放送「久米高タイム」が始まった。この日のテーマは、弁論大会。
「中2から急に、極度のあがり症になっちゃって。人前で発表は無理!」「緊張しなくていいよ」
笑いを交え、飾らない言葉で学校生活を語る生徒たち。トークの間には、お気に入りの曲を自分たちのスマートフォンから流した。6人は「来週もたくさんお話しましょうー」と元気に番組を締めくくった。
2年の国吉陽向(ひなた)さん(16)は「最初は緊張したけど、新しいことに挑戦できて楽しい」。部長でクラスメートの名嘉笑利香さん(17)も「全然知らないおばあから『聞いてるよ』『元気が出る』と言ってもらえてうれしい。久米島は不便もあるけど、地域の人たちが見守ってくれているのが分かる。この島に生まれて良かった」と爽やかな表情で話した。
周波数89・7メガヘルツ。「島の放送局」は24時間365日、町民のそばにある。
(真崎裕史)
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「夢つむぐ島」をキャッチコピーに掲げる久米島町。12、13日に那覇市泉崎の琉球新報社で開かれる物産フェア「久米島ちゃんぷる~広場」に合わせ、奮闘する町民の姿を紹介する。