政治

【特別評論】議会は監視機能発輝を 宮古島市民提訴 斎藤学地方連絡部長

斎藤学 地方連絡部長

 市政に異議を唱える市民に矛先を向け、訴訟によって口を封じる。そのようなことがまかり通れば、地方自治や民主主義は成り立たない。宮古島市の下地敏彦市長は、不法投棄ごみ事業を巡る住民訴訟の原告市民を提訴する議案を取り下げた。市民の間からは「当然だ」との声が上がる。ごみの撤去問題を問題視する市民の行政監視活動に対する意趣返しの思惑はなかったか、市当局は厳しく問われよう。

 行政と議会は車の両輪といわれる。チェック・アンド・バランスの関係にあることを議会は忘れてはならない。ときに暴走しかねない行政の権力行使のゆがみや偏りを正す。その監視機能こそが議会の最たる権能だ。権力の分立によって機関同士が互いに抑制と均衡を効かせる。それが地方自治の円滑な実現で欠かせない。市議会は今こそ市政監視機能を行使すべきである。

 市から被告の対象とされた市民は監査請求を経て住民訴訟を提起するに至った。法で定められた市民の権利を行使したまでである。その過程では市の担当職員の不祥事も明らかになった。公金支出に疑問を持ってもおかしくない。宮古島市政の在り方を問う市民に対する市当局の提訴の動きに対し「スラップ(どう喝)訴訟」との批判が上がるのも当然だ。

 この動きをチェックすべき市議会は今回、本来の機能を十分に発揮したとは言いがたい。与党が圧倒的多数の宮古島市議会で、行政の長である下地市長に議会は助言し、いさめる立場にあるべきであった。

 市から提出された議案は与党市議の中でも頭を抱える難題となっていたという。審議を経て、一部与党市議からはこのような声が漏れたという。「さすがにこの議案を通したら恥ずかしい」「提訴は市長個人ですべきではないか」

 消極的ながらも、市議会が訴訟要件の有無を含め無理な議案内容に気付き、採決直前の段階で行政に異論を唱えた。本来ならば総務財政委員会の審議で訴訟の意図や真意などをただすべきだった。

 そもそも名誉毀損(きそん)の不法行為で市民への訴えを提起する地位や資格が市にあったのか疑問が残る。名誉毀損に対する訴訟は個人の名誉権という人権救済の手段として起こすものだ。それに対し、地方公共団体など公法人に精神的苦痛があるとは言いがたい面がある。しかも損害の算定さえ難しい。極めて例外的な場合を除いては名誉権の保護は地方公共団体には及ばないとされる。

 今回の議案は原告となるべき者に「下地市長」と明記した。原告を市長とすることで公法人の問題をクリアしようとした意図もうかがえる。それでも名誉毀損で市民を訴える訴訟は公金の支出対象として適正だろうか疑問が残る。

 市長は18日、議会に対し議案撤回を表明したが議案内容を「精査する」とだけ繰り返し、再提案の意図もうかがわれる。完全撤回ではない。火種はくすぶったままだ。

 地方自治の健全な発展には市民による監視活動も有効な一助である。市民に対する訴訟は妥当なのか、下地市長に慎重な対応を求めたい。同時に市議会は同様の議案の再提案に歯止めをかけるべく意見書や決議も含め方策を検討すべきだ。









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