「元請けが7、8割持って行く」 国の公共事業に恩恵少なく 約半数を県外企業が受注 つまみ食いされる沖縄振興 〈復帰半世紀へ・展望沖縄の姿〉1


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建物本体部分を受注した大手業者の下請け・孫請けとして基礎となる鉄筋を打ち込む作業員ら=5日、本島北部

 まだ辺りが薄暗い今月5日午前5時半、本島中部の建設業者を訪ねた。40代の男性班長から「現場号」と呼ばれるハイエースに乗るよう指示された。午前8時、到着したのは県内業者が受注した本島北部の学校建設現場。工区に分かれて受注元からの下請け、孫請けの業者がとびや鉄筋、型枠、型枠解体、電気設備など、10社以上の分業制で建設を担う。

 記者は固まったコンクリートから木材や資材を取り除く、型枠解体の業務を体験した。

 「ベニヤ集めて、釘を抜いておいて」。熟練の班長が軽い身のこなしで鉄パイプの足組の上から指示を飛ばす。落ちた木材や資材を拾おうと、身をかがめる度にヘルメットの内側にたまった汗が地面へとぽたぽたと流れ落ちる。作業は記者を含めて4人のみで、休憩時間以外はほとんど体を動かし続け、一息つく間もなかった。

 薄暗く、鉄パイプの支柱が数メートル置きに張り巡られた中では運ぶ木材がパイプに当たり、なかなかうまくいかない。地面には上を向いた釘も散乱し注意しなければ踏んでしまうこともある。昼食休憩時には筋肉の疲労で箸を持った手がぷるぷると震えた。建設作業の大変さを身でもって実感した。

 「若い子たちも肉体労働がきついせいか入ってもすぐ辞めてしまう」。作業終了後に取材に応じた建設業社の60代社長はため息交じりに建設業界を取り巻く厳しい状況を明かした。待遇を厚くしない限り、人手を確保できないのが現状だ。しかしうまくいかない理由を社長はこう語った。「元請けが全体の7、8割ぐらい持って行って末端に利益は降りてこない」

 沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員の宮田裕氏によると、2011~18年で沖縄総合事務局が発注した公共事業の契約金額で県外企業が受注したのは合計で1805億3800万円と全体の45%を占める。

 沖縄防衛局が発注する公共事業でも11~18年の同期間で、県外企業が1572億6558万円と49・5%を占める。県内における国発注工事の約半数を県外企業が受注していることになる。宮田氏は資金が県外へと還流し、県経済で循環しない「ザル経済」を指摘する。

◆県内業者 好況かやの外

 

 取材に応じた60代の社長は会社を立ち上げて20年以上になる。2000年代の談合疑惑による違約金問題によって生じた県内建設業界の不況で受注元が倒産し、支払いを踏み倒されることもあったが、どうにか経営を維持してきた。現在は公共事業から米軍基地関連、民間工事までを請け負うが、末端である現場は好況の恩恵が行き届いていないことを指摘する。

 好況とされる県経済の背景にあるのは増加する観光客に向けた民間ホテル建設や公共事業など、好調な建設関連需要のはずだが、社長の表情は厳しい。「最近は公契約条例もあり、公共事業や米軍基地関連への参入が厳しくなっている」と苦しい胸の内を吐露した。

 社長が指摘する県公契約条例は18年4月に制定された。公共事業に参加する事業者に対し、労働者に対する社会保険への加入などを入札の資格要件と課す。社長は「安全な労働環境の確保などという理念は理解できるが資材費用も負担せねばならず、末端業者が全社員に社会保険を加入させることは経営的にも不可能だ」と強調する。その上で「このままだと末端業者は労働環境も待遇も改善できない」と苦悩を吐露した。

 宮田裕沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員は、県内の国発注事業が県外企業に受注されたことで県民が得られたはずの経済効果が県外に還流した額を試算した。それによると総合事務局発注事業で生産誘発額3341億円、付加価値誘発額1751億円、雇用誘発額約2万3千人分の経済効果が県経済から失われた。防衛局発注事業では生産誘発額2909億円、付加価値誘発額1525億円、雇用誘発額約2万450人分に上る。

 宮田氏は「沖縄振興が県外企業につまみ食いされている現状がある。その副作用として、労働生産性の低さや非正規雇用の多さなどがあり、沖縄企業は低賃金で従業員を雇用せざるを得ない状況が生じている」と指摘する。「沖縄だけに適用する特別立法で振興事業がなされているが、公共事業発注は全国一律仕様で沖縄への配慮がない」と強調。次期振興特別法に、県内事業を受注する県外企業が沖縄に納税する仕組みや、県内企業の競争力向上を図る施策などを盛り込む必要性を提起した。
(当間詩朗)

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 2021年度に期限切れを迎える沖縄振興計画。日本復帰とともに沖縄戦の「償い」として始まった沖縄振興開発計画の第5次計画が2021年度に期限切れを迎える。それを見据え、県は現計画の検証を本格化させている。新たな構想がスタートする22年度は沖縄の日本復帰から半世紀。復帰後の沖縄をどう総括し、復帰50年後の姿をどう描くか。県内の現場を訪ね、課題を浮き彫りにするとともに将来像を展望する。