モノレールの新区間に記者も乗ってみた! くす玉に三線で大歓迎 「眠れなかった」「ずっと楽しみにしてた」


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 沖縄都市モノレール(ゆいレール)の浦添延長区間が1日早朝、スタートした。沖縄県の玄関口「那覇空港駅」から浦添市の「てだこ浦西駅」までつながり、計19駅、総延長17キロとなった。午前5時39分てだこ浦西駅発の始発に記者が乗り込み、ゆいレール内外の光景を眺め、乗客の話に耳を傾けてみた。出発進行―。

 辺りがまだ寝静まった午前4時50分、てだこ浦西駅は興奮に包まれていた。既に70人ほどが列をつくり、切符販売の開始を待つ。

1番電車を利用しようと朝早くから並ぶ市民ら=1日午前5時ごろ、浦添市のてだこ浦西駅

 先頭は、赤いTシャツに赤い靴で決めた那覇市の山川勇さん(55)。2003年のゆいレール開業時も首里駅に一番乗りした。今回は2日前の9月29日午後4時半に駅に着き、「そのまま寝ていた」という。一番乗りの理由を問うと、「そこにてだこ浦西駅があったから」とおどけ、「絶対、一番を取りたかった」と笑顔を見せた。

 ゆいレール職員が開業記念のポストカードを配る。5時5分、シャッターが上がった。真新しい券売機が姿を現し、改札口も見えた。長蛇の列は、記念切符の販売窓口に移った。記者は800円の「1日乗車券」を購入し、改札を通った。

改札口で記念切符を買い求める人たち=1日午前5時12分、浦添市のてだこ浦西駅

 始発のホームは乗客やマスコミ、関係者らでごった返した。スマホで実況中継する人もいる。「遅れないようにと、(心配で)眠れなかった」と笑顔を見せるのは地元の國仲時子さん(67)。「駅ができて、地域が活気づくといいなぁ。とても楽しみ」

 くす玉が割られ、発車の時間が迫る。赤と白字で「祝 浦添延長開業」と書かれた車両の扉が開くと、乗客が一斉に乗り込んだ。記者も乗り込み、扉が閉まる。

出発式で割られたくす玉=1日午前5時34分、浦添市のてだこ浦西駅

 「プー」。5時39分、汽笛のような音が鳴り、車両が動きだした。「おー」と上がる歓声。拍手が続いた。車内は東京の地下鉄を思わせる混み具合だ。親子連れ、おそろいのかりゆしウエアを着た浦添市職員、自治会のお年寄りら。みんな「ウキウキ」が顔にあふれている。

延長区間が開業した初日、乗客を乗せて走りだすモノレール=1日午前5時39分、浦添市のてだこ浦西駅(大城直也撮影)

 車両はあっという間に、次の浦添前田駅に着いた。実際は、上り線は3分、990メートル。そのうち約600メートルはゆいレール初の「トンネル区間」だが、外の暗さのせいか、記者は気付かなかった。

 初乗りを楽しんだ人たちが、わずか一駅で降りていった。その代わりに新しい顔が乗ってくる。知り合いの浦添市職員の男性も、小さなお子さんの手を引いて乗ってきた。照れくさそうなパパ。家族のいい思い出になっただろう。

 経塚駅に車両が入ると、「祝 開通」の横断幕が目に飛び込んできた。再び走り出す。浦添市から那覇市に入った。延長区間最後の石嶺駅だ。「おっ、ここはいっぱいだな」。思わず乗客から声が漏れた。ホームは、延伸を歓迎する地元の人らでいっぱいだ。三線演奏もあり、にぎやかな音楽が車内まで聞こえてくる。

添延伸区間の営業開始を喜び、モノレールに手を振るなどして見送る地元住民ら=1日午前6時30分、那覇市の石嶺駅(大城直也撮影)
「めでたい節」などを演奏して歓迎する石嶺駅周辺の住民ら=1日午前、那覇市首里石嶺町の石嶺駅

 車両は再び走り出した。高齢女性に学生が「どうぞ」と席を譲る。記者が声を掛けると「普通じゃないですか」とクールに返してくれた。那覇国際高校2年の知念大虹(だいこう)さん(17)で、地元のてだこ浦西駅から乗り込んだ。

 これまでは片道半時間以上、自転車で通学していた。「ゆいレール延長をずっと楽しみにしていた。今日はせっかくだから、始発に乗ってやろう、と。学校着いたら、先生たちに自慢します」。きょうは中間テストがあると言い、おもろまち駅で軽やかに降りていった。

 那覇市の国際通りに近い「安里」や「牧志」の駅に着くと、大きなスーツケースを引いた乗客が増えてきた。これから県外に旅行か、はたまた、空港から帰路に就くのか。早朝のためか、会社員の姿は見かけない。壺川駅を過ぎると、空が朝焼けに染まってきた。赤や紫が美しい。若い乗客が空にスマホを向けた。

 陽気なメロディーが車内に流れ、「めんそーれ」の文字が建物の壁面に見えた。「着いたよー」。そこここで声が聞こえた。終点、那覇空港駅だ。乗車時間は40分弱。ホームに降りた乗客は満足そうな顔をしていた。

始発車両から降車し、満足そうな樫野央彦さん=1日午前6時29分、那覇空港駅

 車両を熱心に写真撮影していたのは、「国内の鉄道は全て乗りつぶしています」と話す樫野央彦(てるひこ)さん(52)。9月15日に横浜市の自宅をバイクで出発。鹿児島からフェリーに乗り、昨夜8時からてだこ浦西駅に並んだ。2003年のゆいレール開業時も始発乗車を目指したが、台風でフェリーが欠航し、間に合わなかったという。16年後のリベンジ達成に「大満足。カーブや勾配が多くて楽しかった」と満喫していた。

那覇空港駅に入ってくるゆいレール=1日午前7時11分

 那覇空港のファミレスでは、浦西自治会の会員らがモーニングを食べていた。「感慨深いよね」と、自治会長の宜野座富夫さん(65)。「みんなでモノレール開業の喜びを分かち合おう」と、午前4時に公民館に集合し、総勢40人で始発に乗ってきた。

 宜野座会長は「まだか、まだかとモノレール開業を待ち望んでいた。地域の発展の基盤になる」と喜び、サケの塩焼きを口に運んだ。隣の男性はビールで祝杯。コップはすぐに空になる。午前7時10分。ゆいレールは爽やかな朝を運んできた。(真崎裕史)