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気にせずにいられるようになりたい<伊是名夏子100センチの視界から>183


気にせずにいられるようになりたい<伊是名夏子100センチの視界から>183
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 最近、性の多様性の考え方が広まり「トランスジェンダー」という言葉をよく聞くようになりましたが、性別違和を感じない人のことをなんというか知っていますか? シスジェンダーです。しかしあまり耳にしないでしょう。また障害のある人が通う学校のことを「特別支援学校」と言いますが、その反対の言葉は何でしょう? 普通学校や一般校、地域の学校と言いますが、使う機会は少ないかもしれません。

 特別に名前が付けられている、ということは、その存在が重要視されているという見方もできますが、あえて分けられて、特別視されているということでもあります。多くの人が属するグループや場所は、存在が当たり前すぎて、切り離されることがありません。その中の人は疎外感を抱く瞬間が少なく、自分のカテゴリーを気にする必要がありません。社会学者のケイン樹里安さんは、「マジョリティーとは気にしないで済む人々」と言っています。自分の属性を気にする必要がないことは、恵まれているとも言えるのではないでしょうか。

 逆の見方をすると、ささいなことを気にしたり、不安を感じたりするのは、マイノリティーに属している人の方が多いでしょう。いろいろな場面で不便なことがあったり、分けられたり、自分の居場所がなかったり、特別視されてきた経験があるからです。属しているカテゴリーだけが理由なのではなく、そのカテゴリーの人、特有の、一つ一つの経験の積み重ねがあり、不安感が増したり、新しいことに挑戦するのが怖くなったり、落ち込みがちになることがあります。

 まわりは「細かいことばかりを気にする人でめんどくさい」と、その人だけに理由があると決めつけ、誤解することもあります。でもそれは間違いです。細かいことが気になったり、不安を感じたりするのは、その人だけの問題ではない、水面下に積み重なった社会構造の問題があるのです。

 私も細かいことが気なりすぎて、疲れてしまうことがよくあります。電動車いすだと、雨が降ってもすぐにタクシーに乗れないし、エレベーターが点検で数カ月に一回使えなかったり、人気の安売りのお店は段差があって入れなかったりするなど、不便なことだらけです。それが当たり前なので、気にしないといけないことが、たくさんあるのです。目には見えにくいけれども、日々感じている疎外感がなくなり、私も気にしないでいられる毎日を送りたいです。


 いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。