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袴田さん無罪判決 「有罪根拠」全て否定 再審不備露呈、改正機運も


袴田さん無罪判決 「有罪根拠」全て否定 再審不備露呈、改正機運も 袴田巌さんの再審無罪判決を受け、静岡地検前で控訴しないよう訴える支援者ら=26日午後、静岡市
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判で静岡地裁は26日、無罪を言い渡した。「非人道的な取り調べ」といった表現で捜査を非難し、過去に有罪の根拠とされた主要な証拠は捏造(ねつぞう)だとして全て否定。検察にとって極めて厳しい結末となった。再審開始決定から10年超。改めて再審手続きの不備が浮かび上がり、法改正への機運も高まる。

捜査糾弾

 「重要な証拠について捏造を認定し反論できない状況。控訴を諦めさせるに十分な判決だ」。主任弁護人の小川秀世弁護士は判決後の記者会見で、検察をけん制した。

 開始前から「敗色濃厚」とされていた再審公判で、検察は有罪立証を継続。犯行着衣とされる「5点の衣類」の有無にかかわらず、袴田さんが犯人だと強調した。新規証拠の判断に比較的重点が置かれる再審請求審と異なり、再審公判では新旧の全証拠の総合判断がより重視されるとの期待もあったとみられる。

 だが、この日の判決は5点の衣類に関して「血痕を付けるなどの加工がされ隠匿された」と“偽装工作”の具体的手法に言及。裁判長は判決言い渡し後の付言で、検察の自白調書を「ひどい取り調べをしていてうそのものを含む」と批判した。

 法務・検察幹部は驚きを隠さない。ある法務省幹部は「随分厳しい判決」とし「一度は死刑判決を出した裁判所に批判がいかないよう『捜査機関にだまされた』と言わんばかりだ」と表情を曇らせた。検察幹部は「(判決理由に)説得力があれば受け入れる。精査には時間がかかるだろう」と淡々と述べた。

メンツ

 再審開始を認めた2023年3月の東京高裁決定も捏造の可能性を指摘していた。検察側は強い不快感を示しつつ特別抗告を断念。一方で再審公判に臨む姿勢は波紋を呼んだ。「明らかな人違いの場合は無罪立証する。それ以外は証拠の評価の問題。簡単に『無罪でいい』とできるか」。法務省幹部は当時、引き下がれない理由をこう説明した。

 ただ、捜査の違法性まで指摘され、検察の負った傷は深い。検察の体面や時間稼ぎとの批判も根強く、今回の判決で捜査への疑念はさらに深まりそうだ。静岡地検の小長光健史次席検事は「メンツでやっているわけではないし、引き延ばしているつもりは毛頭ない」とし「法と証拠に基づいてやっていく」と述べた。

課題

 証拠開示ルールの不存在や、いたずらに時間を浪費させる点など、他の事件でも再審制度の不備は問題視されてきた。袴田さんの再審はその象徴とされる。第1次再審請求審は最高裁が08年に退けるまで27年かかり、検察側は第2次請求審で裁判所に促されるまで重要な証拠を開示しなかった。

 こうした現状は放置され続けてきたが、変化の兆しもある。今年3月、再審制度改正を求める超党派の国会議員連盟が設立。所属議員は増え続け、350人に上った。慎重姿勢を崩さない法務・検察サイドを尻目に、議員立法による法改正もほのめかし、揺さぶりをかける。

 小川弁護士は「無罪になるかもしれないと分かっていながら証拠を隠すのは犯罪的な行為だ」と怒りをにじませ、「即刻法改正が必要だ」と訴えた。

(共同通信)