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「説明責任果たした」 裏金事件 自民議員 政倫審拒む 識者「内向きの場は不十分」


「説明責任果たした」 裏金事件 自民議員 政倫審拒む 識者「内向きの場は不十分」 国会の政治倫理審査会に出席していない主な自民党議員
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党裏金事件を受け、国会の政治倫理審査会への出席を求められた議員の多くは「既に説明責任を果たした」との理由で国会の議決を半ば無視し続けている。記者会見や支援者向けの集会での謝罪を指すとみられるが、専門家は「質問に真正面から答えなくても許される記者会見や、内向きの集会では十分に説明責任を果たせない」と指摘。多数に及ぶ政治家に真実を語らせる場をいかに確保するかという課題も浮き彫りになった。
 「経緯の説明の後に全ての質問にお答えした」。5年間で1千万円以上の不記載があったとされる衛藤征士郎元衆院副議長は政倫審に出席しない理由を文書でこう説明した。文書によると、東京地検特捜部による捜査終結後の2月1日に国会内で記者会見。地元でも「個別説明会」を10回開催したと強調した。
 柴山昌彦元文部科学相も「既に説明責任を果たした」として欠席する意向を示している。会見で不記載の理由や還流金の保管方法を説明したほか、個別の取材にも応じたとしている。

個人の判断
 記者会見で説明責任を果たしたとする議員に対し、武蔵大の千田有紀教授(現代社会学)は「政倫審と会見とでは根本が違う」と指摘する。同じように「差し控える」と回答を拒んでも、国会の方が答弁拒否の事実が重く残ると解説する。
 会見で説明したとする議員の中には、裏金問題の釈明とは別の目的で開いた会見で経緯に触れただけの例も。石井正弘氏は次期参院選への不出馬を表明した会見で「派閥のやり方に問題があった」と裏金問題に言及。政倫審に出ない理由は「個人の判断だ」と語った。佐藤啓参院議員は、交流サイト(SNS)への投稿をもって「説明責任を果たした」としている。
 高橋はるみ参院議員は後援会の会合で謝罪した後に、会見ではなくぶら下がり取材に対応。「既に説明を終えたものと認識している」とした。

知らぬはずない
 出席を求められているのは安倍派を中心とする衆参計73人。あるベテラン議員は「真実を話しても納得を得られない可能性が高い」と話す。政倫審で「知らない」と繰り返した松野博一前官房長官ら同派幹部を、野党議員が明確な根拠を示さずに「知らないはずがない」と批判したことが念頭にあるとみられる。
 政治評論家の田村重信氏は、野党が求める73人の弁明や、多数を証人喚問することは現実的ではないと解説。派閥幹部が代表して政倫審に出た点は一定程度評価できるとした。
 一方、千田氏は、安倍派の会計責任者が公判で証言した内容と、政倫審での同派幹部の説明に齟齬(そご)が生じた点も問題視。「誰一人説明責任を果たしていないことが政治不信につながっていることを、政治家は肝に銘じるべきだ」と強調した。

 政治倫理審査会 「政治とカネ」などの疑惑を抱える国会議員が説明する場。ロッキード事件をきっかけに1985年に設置された。本人の申し出か、委員の3分の1以上の申し立てと過半数の賛成で開かれる。出席に強制力はない。原則非公開で、本人が了解した場合に限り公開される。証人喚問と異なり、うそをついても偽証罪に問われない。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件では岸田文雄首相のほか、安倍派幹部らが出席した。衆院44人、参院29人の計73人に出席を求める国会の議決は閉会後も効力が継続しているとされている。