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軍艦島巡る摩擦、教訓   


軍艦島巡る摩擦、教訓    長崎市の端島 (通称・軍艦島)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「佐渡島(さど)の金山」は新潟県と同県佐渡市が世界文化遺産への推薦を文化庁に提案してから17年余りかけて、登録にたどり着いた。鍵を握ったのは、戦時中に朝鮮半島出身者が過酷な労働を強いられたとする韓国。長崎市の端島(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が2015年に登録された際も韓国は同様の主張をし、日本の対応も反発を招いた。この「軍艦島の遺恨」を教訓に、政府は水面下で韓国との交渉を続けた。
一区切り
 「ほっとした。ようやく一区切りだ」。国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会が開かれているインド・ニューデリー。登録決定を受け、日本政府関係者は表情を緩ませた。
 佐渡金山は、21年に文化審議会が推薦を決定しながらも、韓国との関係に配慮した政府が一時は推薦見送りに傾き、国内の保守系強硬論に押される形で推薦を決めた経緯がある。
 政府が韓国への対応に神経を使うのは、韓国が佐渡金山の登録を審議する世界遺産委の委員国でもあるためだ。両国の世論を刺激しないよう「登録まではなるべくニュースにならない状態が望ましい」(政府関係者)。交渉は秘密裏に進んだ。
念押し
 産業革命遺産は、日本が「犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を取る」と表明したことで韓国の賛同を得られ、世界遺産に登録された。
 だが日本がその後、東京都に開設した「産業遺産情報センター」の展示で、軍艦島などで朝鮮半島出身者が働いていたと明示するも、差別的対応はなかったとの元島民の証言も紹介。韓国が強く反発し、21年の世界遺産委では日本の対応は不十分だとされた。韓国政府関係者は「日本が約束を守らなかったとの指摘が多い」と苦々しく語る。
 佐渡金山の登録を決めた委員会でも韓国は産業革命遺産に言及。日本が今回、戦時中も含めた金山の歴史の説明や展示の充実を表明したことを「約束の不履行に関する韓国側の懸念払拭に資するものだ」と評価した上で「日本政府が約束を誠実に履行することを期待する」と念押しした。
チャンス
 日韓関係の安定を図る尹(ユ)錫(ソン)悦(ニョル)政権には、野党陣営を中心に「対日屈辱外交」批判が付きまとう。最大野党「共に民主党」は「日本が帝国主義時代の蛮行を隠(いん)蔽(ぺい)し、歴史を美化するのは明らかだ」と政府対応を糾弾する。
 これに対し、韓国外務省当局者は「今回は軍艦島の時とは違う」と強調。日本が佐渡金山の朝鮮半島出身労働者に関するデータを既に展示したことを踏まえ「真(しん)摯(し)な交渉の結果、約束にとどまらず具体的措置を引き出した」と語り、「強腰」外交をアピールしている。