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改姓で支障、痛む心 慎重派は伝統喪失に不安 選択的夫婦別姓調査


改姓で支障、痛む心 慎重派は伝統喪失に不安 選択的夫婦別姓調査 イメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 結婚後の夫婦同姓を義務付ける現行制度では、改姓するのはほとんどが妻だ。慣れ親しんだ姓を変更して、仕事や生活上の支障、心の痛みを訴える女性は多い。選択的夫婦別姓に関する共同通信アンケートで、容認の考えを示した知事や市区町村長は主に女性が感じる不利益の解消を求めた。慎重派は伝統の喪失を不安視する声が目立つ。ただ、いずれからも「国が議論を進めるべきだ」との意見が相次いでいる。 

 通称

 「日本の古来の伝統を壊してまで導入する意義は見いだせない」(北海道鹿追町)「一体感のある家庭や家族を守り、子孫に良き社会を残すため、制度導入には反対」(新潟県出雲崎町)。導入に否定的な自治体トップは、アンケートの自由回答の中で懸念を示した。「別姓を選択した夫婦の子どもが名乗る姓の問題など、解決すべき課題が多数ある」(長崎県西海市)など子どもへの影響を心配する意見もあった。

 鳥取県倉吉市は、仕事などで改姓によって感じる不便さの解消は「旧姓の通称利用により対応は可能」と指摘した。「世の中に必要な制度かどうかを見極めるためにも議論を深めていく必要がある」(大阪府泉大津市)との声もあった。

 愛着

 女性の社会進出を背景として、女性の生き方に直結する課題にもなっている。大阪府摂津市の会社員奥西由貴さん(35)は、小学生の頃から姓をもじった「奥ちゃん」の愛称で呼ばれてきた。「無愛想でかっちりした感じが気に入っている」と、自身の姓への愛着を語る。2016年に結婚した際に銀行口座の通帳に二重線が引かれ、実印が失効したと通知が来た。


 自分自身が消えていくように感じ、21年に離婚届を提出し事実婚として夫と暮らす。生命保険の受取人に認められるのか、夫と一緒に老人ホームに入居できるのか、心配は尽きない。選択的夫婦別姓が実現したら法律婚に戻すつもりだ。


 「フリーランスの私にとって姓と名はセットで看板だ」。岡山市の松川絵里さん(44)は13年に結婚し、戸籍上は夫の姓に変えた。大学時代から哲学をテーマに執筆活動を続け、旧姓である「松川」で著書や論文を出してきた。「キャリアがリセットされないように」と旧姓を通称として使い続けている。ただ、代表を務める団体で銀行口座を開設した際、通称使用が認められず戸惑った。

 救済

 「生きづらさを抱える当事者が存在している」(秋田県)。制度導入に積極的な立場の自治体トップからは、苦しみや不便を感じる人の救済を求める声が出る。岩手県陸前高田市は、改姓が結婚をためらう理由になっていると指摘し「国が主導して速やかに選択的夫婦別姓制度を創設してほしい」と求めた。


 早稲田大社会科学総合学術院の釜野さおり教授(家族社会学)は、自治体トップの多くが選択的夫婦別姓に対する立場を明確にしたことについて「市民の代表として責任を持って表明した意義は大きい」とする。


 27日投開票の自民党総裁選でも争点に浮上していることに関して「これまで保守派に配慮してきた自民党が変化している象徴だ」と話し、今後、議論が大きく動く可能性があるとみている。