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イスラエルとヒズボラ 全面対決いとわぬ攻勢<佐藤優のウチナー評論>


イスラエルとヒズボラ 全面対決いとわぬ攻勢<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 イスラエルがレバノン南部に拠点を持つイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの壊滅作戦に着手した。

 〈イスラエル軍は23日、親イラン民兵組織ヒズボラが影響力を持つレバノン南部を戦闘機で大規模空爆し、レバノン保健当局によると、女性や子どもを含む182人が死亡、700人以上が負傷した。AP通信によると、昨年10月の交戦開始後、最多の犠牲者数となった。パレスチナ自治区ガザでの戦闘に端を発したレバノン国境地帯での交戦は緊張の度合いを一層高めた。/イスラエル軍は標的約300カ所を攻撃したと発表。ヒズボラ施設近くに住む人々に「安全確保のため」として退避を呼びかけた。軍はヒズボラが影響力を持つレバノン東部ベカー高原への攻撃準備も進めている。APは、軍高官が地上侵攻を近く実行する考えはないと述べたと伝えた〉(24日、琉球新報)

 この件に関して、筆者は9月23日午後7時20分(イスラエル時間午後1時20分)に、秘匿度の高い通信アプリでモサド(イスラエル諜報特務局)の元高官とこんなやりとりをした。

 ―今回のイスラエル軍によるヒズボラへの攻撃はこれまでと位相を異にするように見える。

 「御指摘の通りだ。イスラエル軍は、ヒズボラが持つロケットやミサイルの発射施設、防空施設を徹底的に破壊することを決めた。過去1年で80~90%の施設を破壊できたと考えている」

 ―イランはどう出てくるか。

 「現時点でイランはヒズボラを抑える方向で働きかけている」

 ―ヒズボラはどう出てくるか。

 「ヒズボラはイスラエルの北部にロケット攻撃を行うであろうが、打撃は軽微なものにとどまるであろう。問題は、ヒズボラが保有している射程500キロメートルの弾道ミサイルを使用し、テルアビブを攻撃するか否かだ。この攻撃が行われた場合、イスラエル市民に相当数の死傷者が発生する可能性が排除されない。もっともこのような攻撃をヒズボラが仕掛けてきた場合には、レバノン南部のみならず中部のヒズボラの軍事インフラをイスラエル軍が徹底的にたたきつぶす」

 ―この攻撃より前だが、イスラエルはスパイ映画のような作戦を展開したと私は見ている。9月17~18日にレバノンでヒズボラの構成員らが持つポケットベルやトランシーバーの連続爆発が起きた。

 「ポケベル爆弾工作は、モサドとアマン(軍情報部)による共同作戦だ。過去も同様の作戦を行ったことはあるが、これだけ大規模なものは初めてだ。ヒズボラに与えた心理的打撃が予想よりも大きかった。イスラエル・インテリジェンスの歴史に残る快挙である」

 イスラエルのヒズボラに対する姿勢が今までと質的に異なっている。イスラエルはヒズボラの戦闘能力の解体を本気で考えている。そのためにヒズボラとの全面対決になっても構わないと腹をくくっている。そうなるとイランを巻き込んだ第3次世界大戦の可能性が生まれる。日本のヒズボラ報道は事態を軽視しているとしか思えない。

(作家、元外務省主任分析官)