芸能・文化

『芭蕉布 普久原恒勇が語る―』 光と音と言葉の交響世界

芭蕉布―普久原恒勇が語る沖縄・島の音と光


 本書は、戦後沖縄を代表する作曲家、音楽プロデューサーである普久原恒勇(つねお)氏が、自らの人生や友人たちとの交遊、音楽観や作品を、磯田健一郎氏のインタビューの下、自在に語った書である。
 第一章は作曲家、音楽プロデューサーとしての氏の活動の軌跡が語られる。義父であるチコンキー・フクバルこと普久原朝喜の影響を深く受けながら、氏独自の鋭敏な時代感覚によってレコード制作者、作曲家として新たな世界を切り開いてゆく様が語られている。

 第二章は恒勇氏が音楽活動のかたわら情熱を傾けて来たカメラとの付き合いが語られる。「わたしは透明感というものがとても好きなんです。水晶の透明感、氷の透明感。そして、海の透明感」。ここから私たちは、幾多の沖縄音楽の傑作を生み出してきた氏の音に対する繊細な聴覚と、光や透明性に敏感な視覚が、氏の内面世界において共通感覚的に分かちがたく結びついていることを想像させられる。
 第三章は恒勇氏がこれまで交わって来た民謡歌手や作詞家、音楽家たちとの交友録で、氏から見た友人たちのユニークな素顔が生き生きと描かれている。嘉手苅林昌は編み物が得意だったという話などは、戦後沖縄民謡界の巨人の容貌(ようぼう)に思わぬ角度から鋭い光が当てられている。民謡界からは一見距離が遠そうなジャズ系アレンジャーたちとのつながりも、氏の音楽世界の懐の深さを垣間見せてくれる。
 第四章では恒勇氏の音楽観と作品観が披露される。「西洋音楽を聴いて、バッハを聴き、それからどんどん古いものを聴いていくと、やっぱり民謡にたどり着くんですね。五音音階にたどり着きます」。ここに、氏の生み出した広大で深淵(しんえん)な音楽世界の核心が表明されている。
 本書に見る普久原恒勇の音楽世界の魅力とは、沖縄音楽としてはまれに見る多彩な異種混淆(こんこう)性であり、万華鏡のごとく妖(あや)しく変化し続ける光と音と言葉の交響世界なのである。先達(せんだち)である普久原朝喜を継承して、氏のメロディーも沖縄の親から子や孫たちへと時を超えて継承されてゆくのだ。
 (久万田晋・沖縄県立芸大教授)