芸能・文化

『歌集 相思樹の譜』 歌に託す亡き友への思い

 作者は1984年より琉球新報カルチャーセンター短歌講座で学び、現在は「黄金花表現の会」(平山良明主宰)の会員として、意欲的に作歌を続けている。歌歴25年を超え、作品3千首余りの中から選んだ646首による第一歌集である。

・相思樹の樹々わたりゆ く風の音亡友(とも)の声かと 耳澄まし聞く
・生きよとも哀しめよと も相思樹の黄花(きばな)こぼる る現し身吾に
・いく度か眼鏡拭きつつ 老い母は戦死せし兄の 写真に見入る
 沖縄戦において、学徒看護隊として動員され、十代で命を失った多くの友に対して、今在る自分の思いを「長らへてこの世に在るを罪の如(ごと)学友の遺影に真対ふ吾は」と詠んでいる。4首目には母親の悲痛な姿が詠まれており、戦争がいかに多くの悲しみ、惨(むご)さをもたらすかを伝えている。
・あかときの光のなかに 髪を梳く風車(カジマヤー)の母の 姿しづけし
・己が生命つぎ足すごと く接木する夫のそびら に柔ら陽の差す
・その母の口真似しつつ 絵本読む幼の声の春陽 に清し
 穏やかな時間、空間を持つ一つの家族が描かれている。
・母子草残して庭の草を ぬく逝きにし娘との縁 憶ひつつ
・疎まれしあら草なるに かたばみの黄花つつま し風にそよぎつつ
・真夏日を声なき言葉か はすがに黙認耕作地の 甘蔗の葉揺るる
 自然、植物に自己の思いを添わせて描写が鮮やか。
・昨夜よりの小さきこだ はり大根を刻むリズム と共に去りゆく
・返す言葉胸にたたみて さりげなく眼鏡のくも り拭ひつつをり
 歌は自(おの)ずとその人の心の有様を表す。おおらかで温かみある人柄を感じた。
 戦争詠、身辺詠、自然風土詠、挽歌等々、整った作品が並ぶ中でも、ひめゆり学徒隊の亡き友への深い悲しみや、鎮魂の祈りを秘めた作品は特に印象深い。
・学半ば逝きにし学友を 偲びつつ詠みつぎゆか む相思樹の詩
 作者の心はきっと亡き友に届いているであろう。
 (屋部公子・現代歌人協会会員)