『蚊がいる』 穂村弘著


社会
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キラキラした世界を探し続けて
 いくつになっても居場所を見つけられない、そんな所在のなさを感じている人にはぴったりで、全然ピンとこない人にも新しい世界が広がるに違いない、歌人・穂村弘によるエッセー集。タイトルに即したインパクトのある装丁は横尾忠則によるもの。

 著者は私が短歌を好きになったきっかけのお方。それまで教科書で触れてきた短歌とは全く違う、ファンタジーと現実とを縦横無尽に行き来する独特の世界観、センスが光るキャッチーな言葉溢れる短歌に衝撃を受け、何度も何度も歌集を読み返しては、その才能に嫉妬していた。
 加えてエッセーの面白さも秀逸で、なんだか自分だけがうまく社会に適合できていないような気持ちでいた若き日の自分に、『世界音痴』や『もうおうちへかえりましょう』といったエッセー集で書かれていたダメな自分(著者)エピソードが自分と重なり身に染みた。
 最近でこそ、自意識過剰、気にしすぎ、人見知りといったネガティブワードが個性として認められつつあるが、昔はもっと肩身の狭い想いを強いられてきたはず。それなのに昔から変わらず、いくつになっても、これだけ年齢を重ねても、若葉マークをつけているような挙動不審さと、青春の甘酸っぱさを感じさせ、なんだかちょっと恥ずかしい気持ちにもさせるのが著者のすごいところ。
 エッセーの中で登場する「運命センサー」という自分の運命を察知できるセンサーや、誰もが持っている切り替えスイッチを「世界の切り替えスイッチ」と表現するなど、おなじみの穂村節が光りどのエッセーも面白かったが、過去に受けた衝撃は超えない印象も。
 巻末には芸人・又吉直樹(ピース)との対談も収載。又吉直樹に鋭く斬り込んで得た分析など興味深く読んだ。個人的にはこれが一番面白かったかも。
 (メディアファクトリー 1500円+税)=江藤かんな
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江藤かんなのプロフィル
 えとう・かんな 1980年生まれ。書籍編集を経て、雑誌編集の道へ。女性の興味・関心ごとを探る日々。好きなものは、こけしとおかし、お寺と仏像、お笑い全般。得意ジャンルは、雑学、ブーム、ゴシップ系。くだらないこと(もの)、大歓迎!
(共同通信)

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