<金口木舌>Dデーを想像できるか


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 70年前のきょう報道写真家のロバート・キャパは砂浜に突っ伏していた。ナチスが占領する北フランスの海岸。史上最大のノルマンディー作戦が決行されたばかりだった

▼煙幕の中、舟艇から放り出され、米兵部隊と共に冷たい海を進んだ。頭上は敵弾が飛び交う。手が震えてカメラのフィルムを交換できなかったという
▼この日だけで英米カナダの連合軍15万人が上陸し、第2次世界大戦の転機になったとされる。作戦決行日を指す「Dデー」は今も語り継がれる
▼著名な従軍記者アーニー・パイル(沖縄戦中、伊江島で戦死)は上陸翌日の海岸を歩いた。砂から突き出た2本の“流木”はよく見ると兵士の足だった、と記した。砂浜には何百もの遺体が転がり、渦巻く潮が沖へさらっていった
▼キャパは「恐怖が頭のてっぺんから足のつま先まで私を揺さぶった」、パイルは「精神的にも肉体的にも疲労し、死に神が間近に迫ってきた」と書き残した。戦場取材が豊富な彼らでも、Dデーの激烈さは耐えられなかったのだろう
▼集団的自衛権を振りかざす現政権は、こうした血みどろの戦場をリアルに想像できているのか。脅威を殊更にあおり、矢継ぎ早に戦争への道を地ならしする前に、近隣国との粘り強い外交に汗を流すことが大事だろう。それが21世紀の「普通の国家」ではないか。この国にDデーはいらない。