唱えの応酬に迫力 「忠孝夫婦忠義」復活公演


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わが子を身代わりにする決意をする乙樽(左端)と與座之大主(中央)=22日、浦添市の国立劇場おきなわ

 伝統組踊保存会(眞境名正憲会長)が上演の途絶えている組踊を復活させる「復活公演」が6月22日、浦添市の国立劇場おきなわで開催された。今回は「忠孝夫婦忠義」を復活させた。

與座之大主(神谷武史)、乙樽(田口博章)夫婦の忠誠心を軸とする3時間近くの長編。「大川敵討」「二童敵討」といった名作をほうふつとさせる部分があれば独特の見どころもあり、練り上げればさらに光る可能性を感じた。
 本作は「與那覇政牛所蔵本組踊集」以外には見られない貴重な作品だ。台本整理は眞境名。構成・振り付けは島袋光晴と金城清一。
 南山城主の大城按司は神谷大主(島袋光尋)に殺される。大城の臣下・與座は敵を討とうと大浦之按司(玉城盛義)に加勢を頼む。若按司を連れて逃げていた乙樽も大浦や與座らに合流する。
 乙樽らが逃げる際に敵役の武富之子(大湾三瑠)が登場する。ユーモラスに粗筋を語る「間の者(まるむん)」だ。そこに大城の臣下・眞栄里之比屋(真境名律弘)が通りすがり、武富を成敗する。間の者が悪役で殺されるのは新鮮に感じた。大湾は笑いを誘う演技で展開にめりはりをつけた。
 次に神谷の臣下・呉屋之比屋(親泊久玄)が大浦を訪ね、若按司を差し出すよう迫る。緊迫感あふれる唱えの応酬で引き付けた。
 「大川敵討」では、とらわれの若按司を取り戻すため乙樽が敵陣に潜入する。「忠孝-」では乙樽がわが子を若按司の身代わりにし一緒に潜入することで忠義をより強調している。乙樽と子が與座と別れる場面は地謡の「伊野波節」に乗せて悲しみを表現し、「二童敵討」を想起させる。乙樽役の田口は母性と透明感ある美しさをにじませた。最後に與座たちが刀鍛冶などに変装し敵を討つのは「忠孝-」の独特な部分だ。
 なかなか合同稽古ができなかったというが、せりふ詰まりもなく長丁場を演じきった。音楽も多彩だったが歌三線、伴奏楽器、立方の一体感はもう少し高められると思う。長編なので頻繁な上演は難しいが、再演を重ねれば見どころ・聞きどころが際立ってくるのではないか。
 歌三線は前川朝文、照屋勝義、比嘉康春、末吉政利、玉城利和、宮城勝秀。箏は上地尚子と屋嘉比桂子、笛は知念久光と照屋正、胡弓は新城清弘と又吉真也、太鼓は宇座嘉憲と国場秀治。併せて「萬歳敵討」も上演された。(伊佐尚記)