【ルポ】大浦湾 辺野古沖を巡る 命育む“豊穣の海”


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 名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブで新基地建設埋め立て工事に向けた作業が進む大浦湾が騒がしい。海底掘削調査のための浮標灯(ブイ)などの設置が目前とされた27日、その海を巡った。

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 大浦湾に注ぐ大浦川、汀間(てぃーま)川、美謝(みじゃ)川の源流は緑の山懐に抱かれ、河口に干潟を広げて海に養分を注ぐ。浅瀬から水深60メートルの深場まで、重層的な地形が独自の生態系を育む。“豊穣(ほうじょう)の海”とは言え、地上から見る分には寡黙だ。
 27日午前11時、同僚ら8人で汀間漁港を出港した。大浦湾の生物を観察する「ダイビングチームすなっくスナフキン」の代表で、湾に臨む瀬嵩で生まれ育った西平伸(しん)さん(56)を船頭にスナフキン2号で出発した。西平さんはつぶやく。「森が豊かであってこそ海を語れる。大事なことはどこかで途切れたりせずに、循環することじゃないのかな」
 パラセーリングをする小船の向こうに、海上保安庁のゴムボートが航行していた。埋め立てに反対する市民が乗る船も見える。シュワブの白い浜では、桟橋の建設が黙々と進められていた。
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 シュワブの先端、辺野古崎沖へ進むと長島と平島が横たわる。新基地建設に向けて制限水域が大幅に拡大されたため、長島には海上保安庁による立ち入り禁止の看板が10日ほど前に立てられたばかりだった。
 平島はにぎわっていた。ライフジャケットを着た観光客を乗せた小さな船が続々とやって来る。米兵らしき若者も。海と戯れる人の近くを海保のゴムボートが行き交い、向こうにシュワブが見えた。ブイが設置されればこの海一帯が、市民が「入れる海」と「入れない海」に分断される。新基地建設を進める国の都合で。
 太陽の光を映して透き通る波の下、ホンダワラのような茶褐色の海藻が真っ白な砂地にしっかりと根を張り、森のように揺れていた。岩場の暗い水の深みでは魚たちがひらひら現れては消えた。
 ボディーボードにしがみつき、平島と長島の中間の瀬へと向かう。やや深みのある海底には幾種ものサンゴが息づき、極彩色の魚を招く。沖で波立つサンゴ礁の縁の向こうに、海鳴りを聞いた。
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 汀間漁港への道すがら、桟橋建設中のシュワブの浜から、海保のゴムボートが猛スピードでスナフキン2号をめがけ、途中で止まった。同僚の娘、2歳児のみーちゃんが乗っていたからか。「海は広いな大きいな/月は昇るし日は沈む」。みーちゃんと合唱しながら、陸に戻った。
 命あふれる海と新たな軍事基地建設―。相いれない両者が隣り合う強烈な違和感と息苦しいまでの現実味。海は豊かに波をたたえ、水底に無数の小さな住人たちの命と、それらがひっそりと奏でるこの世ならぬ美しい音楽を潜ませ、黙っている。
(石井恭子)

平島から太陽の光を映して輝く波の向こうに見える、米軍キャンプ・シュワブ=27日、名護市の平島(仲本文子撮影)
辺野古沖の立ち入り禁止区域
平島と長島の間の瀬、サンゴが極彩色の住人を招く=27日、名護市の平島