『想い続ける』 沖縄へのこだわりの軌跡


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『想い続ける』下嶋哲朗著 南山舎・1250円

 山国信州で生まれ育った絵本作家が、妻と子ども2人を連れて東京から石垣島川平に移り住む。70年代半ば。冷蔵庫もテレビもなく、はじめは「マンガやってるさー」と島の人たちに笑われた川平での暮らし。本書は、そこでの1年間を振り返って、33編のエッセーと絵でつづっている。

 「半分失業者」だった絵本作家には時間があった。三線の音が聞こえれば聴き入り、水牛の後を追っては深田の田植えを見物する。島のわんぱくたちの仲間に入って駆け回る息子たち。家族の一人一人に島の優しさが染みこんでいく。
 決定的なのは「みそばあちゃん」との出会いだった。日焼けし、がっしりした体で麹(こうじ)みそを作っていたばあちゃんの暗く悲しげな目。問わず語りに聞く島の暮らしの厳しい現実。海のかなたからもたらされたものは必ずしも幸せばかりではない。
 メルヘンのような絵と、島の人たちとの温かい触れ合いをユーモアを交えた軽妙な文体でつづったエッセーだが、その後の下嶋哲朗という一人の作家がこだわった「沖縄」の軌跡が垣間見えてくる。みそばあちゃんの物語は「ヨーンの道」の絵本となり、強制移住の悲しい伝承から生まれた「野底マーペー」は、戦後の開拓移住者の歴史と重ね合わされる。
 そして、裏石垣開拓地の読谷出身者から聞いた「チビチリガマ」。「集団自決」の一連の著作の集大成が、サイパンから満州までたどった膨大な聞き書きの記録「非業の生者たち」だ。
 丹念な聞き書きと取材を重ねて誕生したノンフィクションの数々は、この「想い続ける」ことの延長にあったのだ。
 マンガしているさーと笑われながらも島人たちから感じ取った無言の問いかけに、著者なりに応答してきた軌跡が「沖縄」関連の作品群になったともいえる。「想い続ける」というさりげない言葉をタイトルにした本書だが、ノンフィクション作家、下嶋哲朗の「沖縄」の原風景がここにある。(仲松昌次・フリーディレクター)
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 しもじま・てつろう 長野県生まれ。ノンフィクション作家。1976~77年、石垣島川平で暮らして聞き書きをする。83年、大阪枚方市、那覇市、石垣市で「沖縄を描く 下嶋哲朗絵本原画展」。同年、読谷村チビチリガマで「集団自決」(強制集団死)を調査した。

想い続ける―下嶋哲朗の八重山絵とエッセー集
下嶋哲朗
南山舎
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