愛と失意、心情巧みに 泉惠得「冬の旅」


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中山孝史(左)のピアノに合わせ、シューベルト「冬の旅」で切ない男性の心情を歌う泉惠得=11日、那覇市のパレット市民劇場

 琉球大名誉教授で声楽家・泉惠得の「六大歌曲集連続演奏会」の一つ「冬の旅」が11日、那覇市のパレット市民劇場であった。昨年11月に始まった演奏会の2回目。この日はシューベルトの歌曲集「冬の旅」から24曲を披露。ドイツ語の歌詞でさまざまな感情を歌い分けた。

 ピアノは中山孝史。「冬の旅」はドイツの詩人・ミュラーが作詩した。恋に破れた若者が失意と落胆のうちに放浪の旅に出た心情を書いた。
 その心情を描くように幕開けの「おやすみ」は中山の寂しげなピアノの旋律に呼応するように、泉も若者の心情を寂しげに歌う。続く「風見の旗」は怒りにも似た力強い歌声でミュラーの世界を表現していく。
 「凍れる涙」では「流れる涙の生ぬるさを」といった歌詞の通り、情感たっぷりに歌う。「かじかみ」では胸に手を当て、愛する女性を思う苦しみを表し、ピアノの悲しげな旋律と調和していった。
 「菩提(ぼたい)樹」は静かにゆっくりとピアノの旋律が響き渡る。一転、テンポが速くなると思うとまたゆったりと。泉は愛する女性への思いを、か細く消え入るような歌声で繊細な心情を観客に訴える。
 軽快なピアノの音色とは対照的に恋人からの来るはずのない手紙を待つ「郵便馬車」は男性の思いを巧みな歌声で表現していく。
 「霜置く髪」では絶望を歌った歌詞に、耳をつんざくような力強い歌声が会場を包んでいく。
 中山の哀愁を誘うような旋律が印象的な「まぼろし」などが披露され、終盤へ向かっていく。最後は「旅籠屋」「勇気」といった前向きな歌詞が印象深い歌を立て続けに歌い、「冬の旅」は終演となった。
 歌い終わると、1人で約2時間歌い切った泉はいつもの柔和な笑顔でほっとした表情を浮かべる。中山と固い握手を交わし、互いをたたえ合うと観客からは割れんばかりの拍手が湧き起こった。(大城徹郎)
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 2月26日には同じ「冬の旅」が沖縄市民小劇場あしびなーで予定されている。4~6月まで県内で計3回ベートーベン、信時潔といった作曲家の歌曲集を歌う。問い合わせは(電話)080(2791)3545。