『高倉健 孤高の生涯 上・下』 映画を生きたスターの姿


社会
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『高倉健 孤高の生涯 上・下』嶋崎信房著 音羽出版・1600円+税

 日本映画黄金期を代表する俳優高倉健は、彼の全盛期で、沖縄が日本に返還前の1966年に人気シリーズ「網走番外地」の6作目「網走番外地 南国の対決」の撮影を沖縄で行い、沖縄の年配映画ファンによく知られている存在だ。この映画は66年、日本映画興行収入第3位を記録した大ヒット作品で、夕日をバックに決闘に行く健さんのシルエットのかっこよさや、ラストの大立ち回りは圧巻で、沖縄で撮影された本土映画で間違いなく傑作といえる。

 本書には謎に包まれた伝説のスターの知られざるエピソードが満載で、この小説の中の健さんは、時に雄弁に仲間と語り合い、時にお調子者のように明るく振る舞う一方で、何度も心が痛む危機に陥り、健さんの人生が挫折の連続だった印象を受ける。
 有名な江利チエミとの結婚と離婚、所属する映画会社・東映社長の岡田茂との確執、東映ロックアウト事件での組合と俳優たちのバトル、先輩俳優である鶴田浩二との出会いと別れなど、映画関係者でも驚くほど、その場で見ている臨場感にあふれた表現で語られる。
 石原裕次郎、美空ひばり、高峰三枝子、千葉真一、小林旭、片岡千恵蔵、渡哲也、中村(萬屋)錦之助といった銀幕のスターたちが実名で次々と登場。中でも鶴田浩二はライバルとして登場し、健さんの新人時代に撮影所裏で決闘、2人が仲直りをしてから「人生劇場 飛車角」で兄弟分を演じ、健さんが東映を退社する時に、2人を任侠(にんきょう)スターに育てたプロデューサー俊藤浩滋、健さん、鶴田の3人が、京都の満開の桜の下で交わされる会話は切なくも美しい。まるで任侠映画のワンシーンのようだ。
 著者は、スポーツ新聞の中でも独自取材で人気の「東京スポーツ」映画記者であったことから、わくわくする言葉で読者を煽(あお)ってくる。
 「映画は光と影の芸術」と呼ばれるように相反する部分がある。多くの人が持つ健さんの華やかなイメージの反面、心の奥深く誰も分からない闇があったことは、相反する要素を持つ映画と全く同じだ。
 まさに「高倉健は映画を生きた」ことが本書から伝わってくる。(吉田啓・映画プロデューサー・脚本家)
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 しまざき・のぶふさ 1945年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。東京スポーツ新聞社入社。文化部時代は映画記者として映画を取材。1975年、オール読物推理小説新人賞佳作を受賞。東京スポーツ新聞社退職後、作家・文筆家に転身。

高倉健 孤高の生涯 上巻・任侠編
嶋崎 信房
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高倉健 孤高の生涯 下巻・流離(さすらい)編
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