『首里王府と八重山』 最先端の研究成果を1冊に


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『首里王府と八重山』新城敏男著 岩田書院・14800円+税

 この本を、どれだけ待ちわびたことか。この著者が切り開いてきた琉球・八重山歴史研究の分野を考えようとする時、長い間、いただいた抜き刷りや掲載された書籍・雑誌を、どうかすれば探し出して(失礼)、必ず読み返さなくてはならなかった。また、一部の掲載誌は、とりわけ沖縄県内では入手・閲覧しにくいという状況もあった。

 本書に収録された論文17本の初出発表は1973年から2013年の40年間に及び、それを、1王府の八重山支配、2八重山の村と役人、3信仰・宗教に整理し、著者の琉球・八重山史研究の、これまでのところの集大成としている。
 著者の歴史研究が、史料に基づいた実証的で堅実なものであることは、既に学界で知られている。研究内容は、本書収録の論文だけでも、家譜および所収文書の基礎的な研究をはじめ、村・役人・風水・念仏者・大阿母など多岐にわたり、全ての論文に多くの重要な成果を挙げることができる。
 史料の多くは首里王府が発給したものであり、そこに八重山とともに王府の姿もみることができる。単なる地域史ではなく、首里王府、琉球王国を考えるためにも、史料が多く残る八重山史の研究は重要な分野なのである。
 著者は、そういった文字史料とともに、収録された「八重山諸島の星見と古謡」のように、古謡や口承も史料による裏付けを与えるなどして積極的に使用されており、「新城史学」という方法論を確立したとして過言ではない。
 各論文に、先行する研究などへの言及は多くはない。また、本書では、初出発表後の追加すべき内容を「付記」として記されているが、その分量もあまり多くない。このことは、著者の論文が先駆的であり、完成度が高いことから後続する研究があまりないことを示している。研究史の中にあり、なおかつ最先端でもある研究成果を、1冊でみることができるようになったのである。
 著者の研究には本書未収録の論文もあり、また今後も新たな恩恵を蒙(こうむ)ることができるであろう。
 (得能壽美・法政大学沖縄文化研究所兼任所員)
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 しんじょう・としお 1942年、台北市生まれ。石垣市で育つ。明治大大学院文学研究科博士課程単位取得退学。現在、名桜大名誉教授。84年に沖縄文化協会比嘉春潮賞、2003年に八重山毎日文化賞受賞。

首里王府と八重山
首里王府と八重山

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