『非情世界』朝日新聞取材班著


社会
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文明の最先端で展開する野蛮な戦い

 極秘で展開する国家間の情報戦の一端に光を当てた迫真のリポート。朝日新聞の連載記事に加筆して再構成した。連載第1回でシリアの化学兵器使用に対する米国の武力行使をめぐる日・米・ロの水面下の駆け引きをすっぱ抜いたところ、米国が外務省に厳重抗議したといういわくつきのシリーズだ。

 現代の諜報活動は高度にハイテク化している。2年前、オバマ米政権が同盟国首脳の携帯電話を盗聴し、ネット上の個人データを収集していた実態が元CIA職員に暴露された。
 こうした諜報活動に加えて機密情報のハッキング、サイバーテロなど、今やサイバー空間は陸・海・空・宇宙に次ぐ「第5の戦場」と称され、各国はサイバー戦士の養成にしのぎを削っている。
 リポートはさらにイエメンやパキスタンで民間人を含む数千人を殺害した米国の無人偵察機をはじめとする最新鋭兵器をめぐる各国の動きを伝えている。
 サイバー戦はルールなき無法の世界と化している。食うか食われるか。「テロ組織との戦いは文明対野蛮の戦いだ」と誰かが言ったが、現代における情報戦は文明の最先端における野蛮な戦いだ。
 さらにサイバー空間には国と企業と個人の垣根がない。昨年末、米国が製作した映画『ザ・インタビュー』をめぐる米朝サイバー合戦は、実は個人ハッカーによる仕業という説もある。
 誰もが仕掛けられるし、誰もが被害者になり得る。被害に気づかないことさえある。その野蛮さは目に見えないだけに限りがない。
 (朝日新聞出版 1400円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!

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