<社説>核使用準備指示 「恫喝」指導者は必要ない


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 ロシアのプーチン大統領が核兵器使用の準備をするよう軍に指示していたことを明らかにした。ウクライナで親ロシア派政権が崩壊し、親欧米派が政権を掌握する「最も好ましくない事態の進展」に備え、昨年2月に指示したとされる。

 核兵器使用の可能性があったことをこの時期に明かしたのは、一方的なクリミア編入問題で国際的な批判がいまだ収まらないことへのいら立ちからだろう。一切譲歩する考えのないことの表明でもある。
 場合によっては核兵器の使用さえいとわない。そんな強硬姿勢を示すことによって、経済制裁を科す欧米諸国をけん制する狙いもあったとみられている。
 だとすれば、あまりにも浅はかである。強硬姿勢は対立を先鋭化させる結果しか生まない。大国の指導者のやることではない。
 核兵器を実際に使用する考えがプーチン氏にあったかは分からない。だが準備指示であっても、核兵器使用をちらつかせて他国を脅すことは時代錯誤も甚だしい。
 プーチン氏の準備指示は「核兵器なき世界」の実現を目指す国際社会への挑戦であり、到底許されない。
 ウクライナの和平合意に基づく停戦が発効して1カ月が経過した。前線での交戦は沈静化したものの、砲撃はやまず、死者も時折報告される状況が続いている。
 戦火再燃の危険をはらんだ中でのプーチン氏の発言はあまりにも不用意だ。ウクライナ政府軍の反発を買う一方で、親ロシア派武装組織には強力に支援するとのメッセージと受け取られかねない。停戦に合意した首脳として無責任過ぎはしないか。
 プーチン氏は「(クリミアという)ロシア人が住む歴史的領土が危険にさらされているのを放っておくことはできない」とも述べている。仮に核兵器を使用すれば、同胞も犠牲になるばかりか、周辺国にも甚大な被害をもたらすことになる。
 このような結果を招くこともためらわない指導者が核保有国で絶大な権力を握っていることは、人類にとって大きな脅威である。
 プーチン氏が大国ロシアの指導者として目指すべきは国際社会の安定に貢献することである。他国を恫喝(どうかつ)することでしか存在感を発揮できない指導者は必要ない。そのことを自覚すべきだ。