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『全電源喪失の記憶』共同通信社原発事故取材班、高橋秀樹編著

命がけで闘った男たち

 必要に迫られて福島第1原発事故のルポやドキュメント、事故報告書を何冊も読んできた。共同通信社の取材班による長期連載をまとめた本書は、その中でも記録的価値と迫真性において抜きんでたノンフィクションである。

 1号機と3号機の爆発、2号機の制御不能、4号機の火災……発生から5日間、破滅に突き進んでいく事故の収束に当たった人々が当時、何を思い、どう行動したか。1年以上、100人近い関係者への取材を重ね、実名証言によって克明に再現した。
 描かれているのは人間だ。東電所員や協力企業作業員は大量の放射線を浴びながら過酷な現場に向かった。万策尽きて絶望的な状況の中、現場に残った約70人はいずれも死を覚悟した。断腸の思いで退避する者がいれば、いったん退避して再び現場に戻った者もいた。避難所の家族たちは、ただ夫や父親の無事を祈った。
 息をのむ場面が次々と展開する。極限状況のさなか、現場に脈打つ使命感と連帯感、地域への思い、家族への愛情が胸を打つ。一方で政府や東電本店のちぐはぐな対応には空恐ろしささえ覚える。最後に深く響くのは、現場を指揮した吉田昌郎所長の「最終的に事故を止めたのは人の力だった」という言葉だ。
 原発是非の判断や事故対応の評価などは一切していない。しかし記された事実からは、取材者たちの怒りや涙や感動が静かに伝わってくる。そして、今も私たちが未解決の巨大な問題を抱えていることにあらためて思いが至る。
 (祥伝社 1700円+税)=片岡義博
(共同通信)
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!

全電源喪失の記憶――証言・福島第1原発――1000日の真実
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全電源喪失の記憶

片岡義博