円熟の音色響く イヴリー・ギトリス


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92歳の年齢を感じさせない演奏で観客を魅了するイヴリー・ギトリス=9日、南城市文化センター・シュガーホール

 “20世紀最後の巨匠”といわれるバイオリニストのイヴリー・ギトリスの沖縄コンサート「pearl of ocean」(イヴリー・ギトリス沖縄コンサート実行委員会、琉球新報社主催、日本弦楽指導者協会県支部共催)が9日、南城市文化センター・シュガーホールであった。

ギトリスの沖縄での本格的な公演は昨年に続いて2度目。92歳という年齢を感じさせない繊細かつ大胆な音色が会場を包んだ。
 そのほかの出演は木野雅之(バイオリン)、岡田光樹(同)、鷲見恵理子(同)、イヴリー・ギトリス沖縄アンサンブル。指揮は天野誠。幕開けはチャイコフスキー「弦楽のためのセレナーデ第1楽章」。天野の緻密かつ躍動感ある指揮により、ギトリス以外の出演者がダイナミックに旋律を奏でる。
 ジャケットにジーンズ姿でギトリスが登場するとひときわ大きな拍手が送られる。「ジーンズで来てしまい、申し訳ない」(ギトリス)とちゃめっ気たっぷりに観客に話し掛けると、演奏時とは異なり、和やかな雰囲気に。演奏が始まり、円熟の技法を見せつけると、会場を緊張感で包む。ヴィヴァルディ「協奏曲集『四季』から『冬』第2楽章」はギトリスの注意深く聞いていないと消え入りそうなか細い音色が響いた。木野らが弦を指ではじく「ピチカート奏法」で軽快なリズムを刻めば、ともに歩くように合わさった音色が響く。
 後半はクライスラーの楽曲を中心に披露。ギトリスを「師」と仰ぐ木野がクライスラー「前奏曲とアレグロ」で熟練の音色を響かせる。「愛の悲しみ」ではギトリスがゆったりと優しい印象を与えながらも哀愁を漂わせた。続く「シンコペーション」も優雅で甘美な雰囲気が包み込む。
 アンコールでギトリスが童謡「浜辺の歌」を弾くと観客からも口ずさむ声が聞こえた。最後まで観客を楽しませると惜しみない拍手で見送られた。
 人懐っこい表情と一転して、演奏で見せる鋭いまなざしから紡がれる音色。二つの異なる表情が世界の人々を長年魅了する理由の一つ。ギトリスの魅力を存分に堪能した約1時間半のコンサートを締めくくった。(大城徹郎)